会長からのメッセージ


土木分野のグローバルな課題に対する国際協働


上田 多門 土木学会 第110代 会長

土木学会(JSCE)は5カ年計画を継続的に立てており、現在のものはJSCE2020─2024(略称:JSCE2020)(1)である。その中に中期重点目標を四つ掲げており、その一つが「我が国が有する質の高いインフラの海外展開と国際的諸課題の解決への主体的貢献」である。そのため日本におけるグローバル人材の育成にJSCEが自ら率先して取り組むと記されており、会長プロジェクトの土木グローバル化総合委員会もこれに符合している。さらに、「世界規模の諸問題に対処するため」に、JSCEは「産官学が一体となって技術的活動に取り組んできた強みを生かして、国際的課題の解決に向けて国際協働で取り組む」とも記されている。この点は、JSCEが主催したアジア土木学協会連合協議会(ACECC)(2)の国際会議CECAR8で公表された「ACECC東京宣言2019(3)」にも合致するものである。
JSCEの過去の国際活動は、どちらかというと開発途上国への技術支援、人材育成が主流であったが、JSCE2020にもあるように、これからは共通する世界的課題に先進国および開発途上国と国際協働で取り組んでいくことの重要性が明示されている。
JSCEが国際協働を行うカウンターパートは各国・地域の土木関連学協会である。JSCEには現在、協定を締結している31の学協会(図1)があり、そのうちの12の学協会はACECCに加盟している。なお、現在、ACECCの加盟団体は17である。JSCEの協定学協会の方が多いのは、ACECCがアジア地域の国際団体だからであり、欧米の学協会は米国土木学会(ASCE)を除いて加盟団体ではないためである。

図1 土木学会の国際ネットワーク
JSCEが各国の土木関連学協会と協働する場合、相手方の組織や活動内容を十分に把握しておく必要がある。というのも、JSCEとは組織の状況が異なっており、国・地域によって多種多様だからである。例えば、多くの国には土木と名のつく学協会がない。オーストラリア、タイ、ネパール、バングラデシュ、パキスタンではそれぞれの工学会が相手方となる。土木と名のつく学協会であっても、土木の全ての分野をカバーしているわけではなく、中国やインドネシアでは水工関連分野が含まれておらず、それらは別の団体となる。また、一部の団体は、日本工学会のように、下部組織の連合体のような性格を有し、中国やベトナムがそれに該当する。このような場合、各下部組織が実質的な活動を行っている。JSCEは産官学の専門家が一堂に会し、技術調査や研究といった創作的活動も活発に展開しているが、他国の組織は教育や啓発活動が主体であることがあり、例えば、米国や英国がそれに相当する。JSCEに組織・活動形態が近いのは大韓土木学会(KSCE)である。
前述のような状況を理解した上で、自然災害対応、人口過密問題、気候変動対応、ダイバーシティ&インクルージョン、人材育成といったグローバルな課題を、多国間、二国間で協働して取り組んでいくこととなる。他国の組織との比較から明らかなように、JSCEは土木全般をカバーし、産官学の専門家が参加し、技術・研究活動を総合的に行える数少ない組織であることから、国際協働をリードしていく責務があると考える。今後、JSCEは国際協働活動を継続的かつ活発に行っていく。皆様のご協力が得られれば幸いである。


参考文献
(1) 土木学会5か年計画:JSCE 2020-2024:https://committees.jsce.or.jp/JSCE20XX/jsce2020
(2) アジア土木学協会協議会(ACECC)担当委員会: https://committees.jsce.or.jp/acecc/node/4
(3) ACECC Tokyo Declaration 2019:https://committees.jsce.or.jp/acecc/node/46
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会