会長からのメッセージ


土木のイノベーションで未来を創造する


田中 茂義 TANAKA Shigeyoshi 第111代土木学会会長


今年(2023年)6月に立ち上げた「土木の魅力向上プロジェクト」では、土木の魅力とその役割を土木の内と外に積極的に発信し、世の中の人々に土木を正しく理解していただくことを目的とする。親委員会である「土木の魅力向上特別委員会」のもとに二つの小委員会とさまざまなワーキンググループがあり、現在精力的に活動中である(図1)。特に、多くのフォロワーを持つユーチューバーの方々との対談動画は、土木学会ではこれまでなかった試みである。「見ましたよ」という声を聞くことも多く、その影響力の大きさを実感している。

国際的な活躍
土木技術者個人の業績や日本の土木技術が国際的に評価され広く世界に認知されることは、土木の魅力向上とステイタスアップのために必要だ。アフガニスタンでの故中村哲(てつ)医師の灌漑(かんがい)事業は、彼の非業の死とともにクローズアップされ世界で注目されることとなった。故高橋裕(ゆたか)先生は、河川思想の展開と実践を半世紀にわたって取り組まれ、土木分野で唯一、JapanPrize(日本国際賞)を受賞された(注1)。「ボスポラス海峡横断トンネル」では、トルコ国民150年の夢の実現としてトルコ国内で大きく報道され、評価された。また一連の香港の海底トンネル工事では、香港の社会インフラ整備に大きく貢献し、香港経済を支える大動脈としての役割を果たしている。
これからの土木を担う若い技術者にはぜひとも、世界も視野に入れて活躍していただきたい。自らの技術に磨きをかけ、英語をはじめとする外国語の素養を身に付け、世界に打って出てほしい。

図1 土木の魅力向上プロジェクトの組織図(2023年10月現在)

志を持ち、自らの言葉で発信する
土木学会会員の皆さんには、「自分の言葉で土木の魅力を発信」していただきたい。土木に携わる全員が自分の仕事の意義や楽しさ、やりがいや醍醐味などを家族や友人など廻(まわ)りの人々に語ってほしい。そのためには、土木に携わる人々が楽しく生き生きと仕事ができる環境を整えることがまず大切で、土木学会としても活動を推進していく。
さらには各自の技術的取り組みや経験をアーカイブとして残してほしい。各自の行動が土木の魅力を世の中の人々に伝え、土木の正しい理解につながる。また、土木屋として志を持つことが大切だ。これにより仕事に誇りが生まれ、その足跡は世の中から評価される。大河津(おおこうづ)分水堰の竣工記念碑には、青山士(あきら)の言葉(注2)が刻まれているが、ここにはキリスト教徒である青山の精神と、土木技師としての志が表れている。

イノベーションの先頭に立つ
われわれ土木技術者は現在の課題解決とともに人口減少社会の継続を見据え、未来の課題にも対応する必要がある。少子高齢化社会では、GDPの減少など経済的衰退に加えて、医療・福祉・介護などに大きな問題が生ずる。私自身、親の介護を機に実感している。これらの問題に対しても、インフラ整備や街づくりなどを通して、「土木がイノベーションの先頭に立つ」ことで、大きく貢献できる。
総合工学であり行政・法律・経済と幅広い領域をカバーする土木、また柔軟な発想と包容力を持つ土木技術者の資質はこれを可能にする。皆さま方が「土木のイノベーションで未来を創造する」ことを大いに期待する。


(注1)2015年4月に受賞。本賞は1985年に第1回授賞式が開催された。
(注2)大河津分水堰のそばにある、信濃川補修工事の竣工記念碑には、「萬象に天意を覚る者は幸なり」という青山士の言葉が刻まれている。

会長プロジェクトでは動画配信中。会長が土木の魅力を語っています(QRコード参照)。
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会