2024年4月号 会長特別企画2023 会長・次期会長対談


初代会長の私邸で語り合う 土木学会のいま、そしてこれから


[対談メンバー]
田中 茂義第111代 土木学会 会長
佐々木 葉土木学会 次期会長

2023年10月6日(金)本郷瀬川邸(旧・古市公威邸(東京都文京区))にて

技術者に「将に将たる」ことを求めた初代土木学会会長の旧・私邸で、第111代会長と次期会長が、土木学会のいまとこれからを語り合う。個人に焦点を当てた土木の魅力の発信は、私たちのやりがいにつながる。

土木の魅力向上はまず学会の活性化から

佐々木 ー 今日はこんなすてきな場所で田中会長と対談ができ光栄です。ここ、本郷瀬川邸が古市公威(ふるいちこうい)先生のお宅であったことは知っていましたが、中に入る機会がなく今日が初めてです。初代会長古市先生ゆかりのお宅で、第111代の田中会長と次期会長の私が語る、となれば、「会長としてやるべきこと」から始めざるを得ませんね(笑)。
田中 ー そうですね(笑)。私が就任時から言い続けているのは、「土木の魅力を向上させる」ということです。そのためには若い人や女性、外国人などさまざまな方に参加してもらい、土木学会を活性化する必要がある。そうすれば外からも「土木学会って面白そう」と見えるだろうし、皆も楽しくなって積極的に情報発信をするようになり、いい循環が生まれると思っています。
佐々木 ー 会長ご自身には、学会活動の中で楽しかった思い出はありますか?
田中 ー 昔、当時の会長プロジェクトに若手メンバーの一員として参加したことがあります。役所の方や私のような建設会社所属の技術者、建設コンサルタント、研究者などが関わっていました。業種や立場を超えて議論をする機会がそれまでなかったので、とても刺激的で面白かったですね。
佐々木 ー いわゆる「心理的安全性」が確保されていないと、本音の議論はできませんね。土木のエンジニア、プランナー、デザイナーなどが仕事上の立場を超えて自由に意見を言える場であることが本来の学会の目的だと、私も思います。
田中 ー 理事会の活性化も課題です。理事会は企業でいえば取締役会に当たる意思決定機関でしょう。企業の取締役会は社外取締役や社外監査役が加わり、いろいろな質問が出るようになって活性化しました。土木学会の理事会も、もう少し青臭い意見やばかげたことを言う人がいてほしいと思うけれど、なかなかそうはならない。だから私が率先して、そういう発言をしているんですよ(笑)。


複合的な視点と「志」を持った技術者の交流の場

佐々木 ー 古市先生といえば、「土木技術者は将に将たる人」という意味の言葉が知られています。田中会長は、この言葉をどのように受け止めておられますか?
田中 ー 土木技術者に対してはこう話します。「土木は総合工学であり、電気、機械、建築、材料化学など多くの分野を内包している。だから、土木の人間がオーケストラの指揮者になってマネジメントしていく気概を持て」と。ただ、それだけが土木の価値ではないし、他の専門分野の人たちや"ものづくりの匠(たくみ)"のような人たちを排除することにならないよう気をつけています。
佐々木 ー そうした匠たちがいなければ、ものづくりはできないですものね。私は「将に将たれ」は、「複合的な視点を持ちなさい」という意味だと解釈しています。大きな仕事を早く効率的に達成するにはピラミッド型の組織が適していたのでしょうけれど、豊かさやイノベーションをどう生み出すかが重視されるいまの時代には、さまざまな人が複雑に絡み合うネットワーク型の社会や組織が求められているはずです。
田中 ー 土木学会はまさに、そうしたいろいろな見方のできる人が集まって交流する場ですね。会員には、包容力があり、旺盛な好奇心とチャレンジ精神、そして何より「志」を持った土木技術者になってほしいと思っています。施工管理のスキルや課題解決力も大事だけれど、志がなければそれらを役立てることはできません。
佐々木 ー 「立身出世」という意味の志ではなく、自分自身の意志や価値観を持ちなさい、ということですね。学会の礎を築いた古市先生、廣井勇(ひろいいさみ)先生、青山士(あおやまあきら)先生なども、強い使命感をお持ちでした。
田中 ー 土木の魅力を発信するという意味では、もう少し「個人」にも光を当てたいと思っています。これまで「土木は立派なことをやっているのだから、縁の下の力持ちでいい」という考えが主流でしたが、個人を前に出すことで、やりがいを実感できると思います。
佐々木 ー 土木学会の総会に先立ち学会の各賞が授与されます。その時に表彰される人、全員のお名前が表示されるようになったのは、とてもいいですね。2024年はもうちょっとビジュアルにこだわって、映画のエンドロールのようにかっこよく表示しませんか(笑)? そのプロジェクトにどれだけの人たちが関わっていたかが直感的に伝わり、魅力の発信にもなると思います。
田中 ー 土木って面白いよ、ということが世の中に伝われば、会員数も自然に増えるはずですからね。
佐々木 ー 土木という技術の世界は、最新のDXによって初めて可能になるような最先端へのチャレンジがあると同時に、石やレンガを一つ一つ積む技術の価値が失われない世界でもあります。土木学会にはそれぞれの専門家が集まっているので、そこに身を置くことで自身の視野が広くなる。そこが学会の大きな魅力ですね。2024年度は土木学会を、ますます楽しい交流ができる場にしていきたいと思います。

[執筆]三上 美絵
[撮影]大村 拓也
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会