人材育成のコストを考慮した税金等の流れ

−財政移転・人材移転の現状に関する試論−

 

 

1.財政移転を巡る議論

 わが国においては、地域間の公平性確保の観点から各自治体の財政状況に応じた財政移転(再配分)が行われている。具体的には、国税として徴収した税金の一部が、地方交付税、補助金等として財政状況の厳しい自治体に対して補填されている。

 このことに対して、都市部の自治体からは受益と負担の不一致を理由に、もっと都市部に投資すべきであり、こうした地方部への財政移転に対して批判の声が聞かれる。一方、こうした批判への反論として、地方部の自治体からは、都市部の住民には地方部出身者が多い。すなわち、地方部で教育投資(人材育成コスト)等を受けた人材が都市部に移転し、都市部の財政(納税等)に貢献しており、都市部で納められている税金の相応部分が地方部に還元されて然るべきという反論がある。

 

2.本試論のスタンス

従来、上記のような財政移転と人材移転を絡めた論議は定性的なレベルに留まっている。このため本試論では、こうした論議をできるかぎり客観的かつ意味あるものにするために、公表データをもとに、財政移転および人材移転の現状について正確な情報を整理し、論議の材料を提供することに主眼を置く。

 

3.財政移転・人材移転の把握の枠組み

(1)人材移転を考慮した財政移転の捉え方

 一般に、地方財政における歳入・歳出は、自治体の年間のキャッシュフローを示すものである。そこにおいて、国税のように自治体をスルーして国の会計に入る税収は歳入に計上されない。一方、国からの地方交付税、補助金は歳入に計上され、結果的に歳入と歳出は、その帳尻を合わせている。すなわち、自治体の歳入・歳出は国による調整を経た後の財政状況を表している。

 従って、財政移転が自治体間でどのように行われているかについては、これらをみてもわからない。また、地方交付税、補助金など、国からの財政援助に関する項目だけを積み上げても同じである。つまり、どの自治体が財政移転の原資を拠出し、どの自治体が財政移転を受け入れているのかということまでは、既存の統計からは直接把握できない。

国と地方の間ではなく、自治体相互間の財政移転状況を把握するには、国による調整が行われないと仮定した場合の状況を再現することが必要となる。さらに教育を受けた人材移転を考慮するとなると、出身地と居住地の関係を反映する必要がある。このため、本試論では、「人」に着目し、「居住地」「出身地」をベースとしたアプローチを試みる。この時、通常の財政主体ベースの「歳入・歳出」概念との混同を避けるため、ここでは「収入・支出」概念を用いる。

 

(2)居住地ベースの財政移転の把握方法

まず第1ステップとして、居住地ベース(都道府県別)の移転額(収入−支出)を算出する。ここで言う収入とは、当該自治体の居住者が支払っている税金(国税、地方税)等と自治体独自の収入の合計であり、支出とは居住者が当該自治体において享受している各種サービスに係る支出(行政投資[基盤整備費用等]、義務的経費[人件費等])である。

 

 詳1:支出の具体的算出方法

都道府県別の支出=「都道府県別の行政投資の実績額」+「都道府県及び市町村の義務的経費」

(注1)行政投資の実績額:普通建設事業費(補助事業費、単独事業費)、災害復旧事業費、失業対策事業費

    義務的経費:人件費、物件費、維持修繕費、扶助費

 詳2:収入(居住者ベース)の具体的算出方法

都道府県別の収入=「都道府県別の国税徴収の実績額」+「都道府県及び市町村の地方税」

          +「都道府県及び市町村のその他収入」

(注1)国税:所得税、法人税、酒税、物品税、相続税、たばこ消費税など

地方税:都道府県県民税、市町村民税、事業税、固定資産税、自動車税など

(注2)国税徴収の中には国の予算として利用されるものが含まれるため、上記で算出した収入の全国計は詳1で算出した支出の全国計を超過する。この超過分(全国計)の都道府県別内訳はデータ入手不可能なため、本試論では、国税徴収の実績額の都道府県別比率で都道府県別に減額処理をする。この処理により、全国計での収入と支出が一致する。

(注3)さらに、国税の一部である法人税は本社所在地で計上されるが、人ベースで考える場合、事業所、工場等の所在地で計上するのが妥当との考え方に基づき、法人税の全国計を法人事業税の都道府県別比率で割り戻し(再配分)調整を行う。これにより、本社所在地の多い都道府県の法人税は減額し、本社所在地の少ない都道府県の法人税は増額される。

(注4)法人事業税:地方税の事業税の内、法人の行う事業に対して課せられる税(各事業所で納付)

 

このようにして算出される収入と支出の差額(ここでは「移転額」と呼ぶ)を居住地自治体別に計算することによって、財政移転の原資を拠出している自治体とこれを受け入れている自治体を明らかにすることが可能となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図1 居住地ベースの移転額算出の構造(移転を受ける自治体の場合)

 

(3)出身地ベースの財政移転の把握方法

次に第2ステップとして、出身地ベースの移転額(収入−支出)を算出する。このためには、まず各自治体居住者の出身地構成を把握する。その上で、もともと当該自治体の出身者による収入(税収等)はそのまま当該自治体の収入として計上し、他自治体からの転入者による収入は出身地において計上するという方法により、出身地自治体別の収入を計算する。

支出は前述の居住地ベースの支出と同じである。こうして得られた収入と支出の差額(「移転額」)を求めることにより、出身地ベースでの財政移転状況が明らかになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図2 出身地ベースの収入の算出構造

 

    詳:出身地ベースの収入の試算方法

@各自治体収入/各自治体人口=一人当たり収入

A他自治体出身者数×一人当たり収入=他自治体出身者から徴収した収入

B上記の数値を出身地域の収入として集計

 


4.試 算

(1)試算の前提

 @居住地ベースの財政移転に関するデータは都道府県単位で入手可能であるが、出身地ベースの財政移転に関するデータは、基本となる出身地構成に関するデータが地域別(全国10地域)でしか入手不可能なため、最終的な整理・分析は地域別単位で行う。

 A試算する年度は大半の最新データが入手可能な平成9年度とする。ただし、「行政投資」のデータは平成8年度が最新版のため、行政投資データのみは平成8年度データをそのまま用いる。

 

(2)居住地ベースの財政移転の試算結果

上記した方法、前提の下に、居住地ベースの財政移転(収入−支出=移転額)状況を試算した結果が図3である。都道府県別の数値を付表1に、そしてこの数値を日本地図に表示したのが図4である。これらの図から、3大都市圏からその他の地域に財政移転している状況が理解できる。

(注) 1.近畿圏の移転額が少ないのは、平成7年に起きた阪神・淡路大震災の影響が考えられる。

2.地域別区分の定義は以下の通り。以下同様。

北海道(北海道)

東北(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、新潟県)

北関東(茨城県、栃木県、群馬県)

東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)

中部・北陸(富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県)

名古屋圏(岐阜県、愛知県、三重県)

近畿圏(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)

中国(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)

四国(徳島県、香川県、愛媛県、高知県)

九州・沖縄(福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県)

 (資料)地方財務協会『地方財政統計年報』、国税庁『国税庁統計年報書』等をもとにMRI推計。

図3 居住地ベースの移転額


【付表1】都道府県別収入・支出・移転額等                (千円

 

 

収入(a)

支出(b)

移転額(a-b)

人口(千人)

一人あたり移転額

一人あたり教育額

1

北海道

3,581,382,732

5,436,079,768

1,854,697,036

5,702

-325.3

1,158

2

青森県

702,618,136

1,227,878,302

525,260,166

1,480

-354.9

1,118

3

岩手県

715,055,163

1,328,108,676

613,053,513

1,418

-432.3

1,189

4

宮城県

1,494,688,148

1,656,072,832

161,384,684

2,348

-68.7

921

5

秋田県

619,559,730

1,142,427,122

522,867,392

1,206

-433.6

1,140

6

山形県

648,202,404

1,083,524,899

435,322,495

1,255

-346.9

1,033

7

福島県

1,226,501,536

1,573,989,632

347,488,096

2,137

-162.6

956

8

茨城県

1,765,368,517

1,923,272,328

157,903,811

2,983

-52.9

892

9

栃木県

1,223,298,076

1,236,500,332

13,202,256

2,001

-6.6

861

10

群馬県

1,264,256,059

1,339,860,850

75,604,791

2,018

-37.5

965

11

埼玉県

3,595,193,477

3,295,100,580

300,092,897

6,852

43.8

788

12

千葉県

3,466,896,277

3,075,186,199

391,710,078

5,852

66.9

834

13

東京都

17,531,701,394

9,236,592,909

8,295,108,485

11,808

702.5

939

14

神奈川県

5,971,652,716

4,427,019,482

1,544,633,234

8,325

185.5

848

15

新潟県

1,511,369,877

2,298,412,407

787,042,530

2,494

-315.6

1,005

16

富山県

771,675,503

965,812,003

194,136,500

1,126

-172.4

1,120

17

石川県

815,817,998

984,790,038

168,972,040

1,184

-142.7

1,038

18

福井県

618,297,947

747,085,001

128,787,054

829

-155.4

1,095

19

山梨県

547,877,344

773,262,278

225,384,934

889

-253.5

1,059

20

長野県

1,417,985,185

2,063,838,602

645,853,417

2,213

-291.8

1,047

21

岐阜県

1,227,511,280

1,524,478,252

296,966,972

2,111

-140.7

943

22

静岡県

2,561,512,806

2,224,490,718

337,022,088

3,760

89.6

830

23

愛知県

5,996,390,074

4,135,469,434

1,860,920,640

6,932

268.5

828

24

三重県

1,247,220,808

1,316,546,105

69,325,297

1,855

-37.4

947

25

滋賀県

843,693,600

967,401,145

123,707,545

1,311

-94.4

1,068

26

京都府

1,782,980,326

1,771,182,668

11,797,658

2,631

4.5

880

27

大阪府

7,737,839,656

5,653,891,026

2,083,948,630

8,802

236.8

901

28

兵庫県

4,058,694,616

5,078,068,401

1,019,373,785

5,433

-187.6

907

29

奈良県

658,589,656

969,171,772

310,582,116

1,444

-215.1

916

30

和歌山県

655,173,601

871,461,343

216,287,742

1,078

-200.6

1,011

31

鳥取県

351,043,316

609,928,059

258,884,743

614

-421.6

975

32

島根県

432,402,671

855,899,338

423,496,667

768

-551.4

1,318

33

岡山県

1,288,575,216

1,437,866,224

149,291,008

1,956

-76.3

950

34

広島県

1,799,906,558

2,027,528,787

227,622,229

2,883

-79.0

915

35

山口県

1,040,257,854

1,153,080,145

112,822,291

1,547

-72.9

980

36

徳島県

504,456,406

831,738,022

327,281,616

831

-393.8

1,134

37

香川県

738,306,750

785,504,590

47,197,840

1,028

-45.9

975

38

愛媛県

878,681,080

1,175,045,436

296,364,356

1,504

-197.1

886

39

高知県

450,112,661

858,083,069

407,970,408

814

-501.2

1,286

40

福岡県

2,880,215,213

3,052,802,730

172,587,517

4,970

-34.7

809

41

佐賀県

448,204,187

735,548,366

287,344,179

885

-324.7

941

42

長崎県

720,133,478

1,284,150,645

564,017,167

1,536

-367.2

940

43

熊本県

930,922,009

1,383,965,126

453,043,117

1,863

-243.2

975

44

大分県

648,266,953

1,004,733,588

356,466,635

1,229

-290.0

1,087

45

宮崎県

521,577,709

962,619,691

441,041,982

1,177

-374.7

959

46

鹿児島県

790,893,509

1,569,139,710

778,246,201

1,792

-434.3

998

47

沖縄県

502,095,503

1,130,447,087

628,351,584

1,291

-486.7

969

 

合計

91,185,055,717

91,185,055,717

 

126,165

 

 

(注) 兵庫県の移転額が少ないのは、平成7年に起きた阪神・淡路大震災の影響が考えられる。

(資料)地方財務協会『地方財政統計年報』(平成11年版)、国税庁『国税庁統計年報書』(平成9年版)、税制調査会『国の予算』(はせ書房、平成9年度版)、自治大臣官房地域政策『行政投資』(地方財務協会、平成10年版)、総務庁統計局『平成9年推計人口』を参考に、MRI推計。
なお、数値は平成9年度値であるが、『行政投資』に関する数値はデータの制約上、平成8年度値を使用。


(注) 兵庫県の移転額が少ないのは、平成7年に起きた阪神・淡路大震災の影響が考えられる。

(資料)地方財務協会『地方財政統計年報』、国税庁『国税庁統計年報書』等をもとにMRI推計。

図4 都道府県別居住地ベースの移転額

 

 


(3)出身地ベースの財政移転の試算結果

わが国の地域別の出身者分布は表1のような状況となっている。東京圏の32%、そして近畿圏及び名古屋圏の21%は圏域外からの出身者である。一方、最も自圏域の出身者が多いのは東北であり、94%に達する。

 

表1 地域別人口の出身地分布

居住地・者

(千人)

 

出身地

北海道

東北

北関東

東京圏

中部・北陸

名古屋圏

近畿圏

中国

四国

九州・沖縄

5,702千人

12,338千人

7,002千人

32,837千人

10,001千人

10,898千人

20,699千人

7,768千人

4,177千人

14,743千人

北海道

87.7%

0.7%

0.2%

2.0%

0.3%

0.9%

0.3%

0.4%

0.3%

0.2%

東北

4.6%

94.0%

3.6%

9.2%

1.8%

2.5%

0.8%

0.8%

0.3%

0.4%

北関東

0.2%

0.4%

87.7%

3.9%

0.6%

0.4%

0.2%

0.3%

0.0%

0.2%

東京圏

1.4%

2.9%

5.1%

68.4%

4.0%

2.0%

1.8%

1.5%

1.0%

2.2%

中部・北陸

0.4%

0.4%

1.0%

4.3%

88.1%

3.1%

1.5%

0.5%

0.4%

0.3%

名古屋圏

0.5%

0.3%

0.2%

1.5%

1.4%

78.7%

2.0%

0.8%

0.1%

0.4%

近畿圏

0.5%

0.4%

0.7%

2.6%

1.2%

2.8%

79.5%

3.4%

3.3%

1.9%

中国

0.1%

0.2%

0.3%

1.8%

0.4%

1.8%

4.6%

83.6%

1.8%

1.2%

四国

0.3%

0.1%

0.3%

0.9%

0.5%

1.0%

3.2%

1.6%

89.4%

0.5%

九州・沖縄

3.4%

0.3%

0.6%

4.2%

1.2%

5.9%

5.4%

5.6%

3.0%

92.1%

外国

0.9%

0.2%

0.4%

1.3%

0.6%

1.0%

0.8%

1.6%

0.4%

0.7%

(資料)国立社会保障・人口問題研究所『第4回人口移動調査』、総務庁統計局『平成9年推計人口』。

 

この出身地のデータをもとに、居住地ベースの収入を出身地ベースに組み替えた結果が図5である。図中の「自地域分」とは当該出身地の地域内に現在居住している人の収入分であり、「他地域分」とは出身地以外の他地域に転出して居住している人の収入分である。

これによると、東北、四国、九州・沖縄では、当該地域の30%以上が他地域に転出した人による収入であり、東京圏の6%、近畿圏の11%を大きく上回っている。東北を例にとると、東北で教育投資等を受けた人材が東北以外で3.7兆円の収入を得ており、それは東北出身者全体の収入10.2兆円の36%に相当する。そして表2に示すごとく、この人材移転者による収入3.7兆円は、居住者ベースで見た場合の移転額3.4兆円を上回っている。

(注) 近畿圏の移転額が少ないのは、平成7年に起きた阪神・淡路大震災の影響が考えられる。

(資料)地方財務協会『地方財政統計年報』、国税庁『国税庁統計年報書』、国立社会保障・人口問題研究所『第4回人口移動調査』等をもとに、MRI推計。

図5 出身地ベースの収入構造

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表2は移転を受けている地域の居住地ベース移転額と他地域への移転者の収入を比較した結果である。これによると、北海道、東北、四国、九州・沖縄の各地域では、概ね他地域への収入貢献が移転額の1/2相当額であるという興味深い結果が得られている。

 

表2 移転額を受け入れている地域の居住地ベース移転額と人材移転収入との比較

(百万円)

 

北海道

東北

北関東

中部・北陸

中国

四国

九州・沖縄

居住地ベース移転額(a)

1,854,697

3,392,419

246,711

1,026,112

1,172,117

1,078,814

3,681,098

他地域への移転者の収入(b)

3,140,873

6,509,425

3,726,087

5,925,994

4,102,485

2,298,972

6,847,519

(a+b)

1,286,176

3,117,006

3,479,376

4,899,882

2,930,368

1,220,158

3,166,420

(資料)国立社会保障・人口問題研究所『第4回人口移動調査』、総務庁統計局『平成9年推計人口』をもとにMRI推計。

 

本試論では、このことをさらに明確にするため、こうした人材移転の貢献見合い相当額(転出先での収入)を出身地の収入と見なした場合の収入(出身地ベース)と支出との差額(移転額)を計算した。その結果を図6に示す。

 

(注) 近畿圏の移転額が少ないのは、平成7年に起きた阪神・淡路大震災の影響が考えられる。

(資料)地方財務協会『地方財政統計年報』、国税庁『国税庁統計年報書』、国立社会保障・人口問題研究所『第4回口移動調査』等をもとに、MRI推計。

 

図6 出身地ベースの移転額


(4)財政移転と人材移転の関係

 これをさらに、前掲の図3(居住地ベースの移転額)と比較したものが図7である。これによると、出身地ベースで移転額を計算した場合の方が大幅に平準化されていることが分かる。

大都市圏ほど収入原単位が大きいことを考慮すれば、各地域は概ね、当該地域出身者の収入貢献に見合った支出となっていると言える。換言すれば、出身地で教育投資を受けた人材の大都市圏等の転出先での収入貢献を勘案すれば、現在の財政移転を受けた各地域の支出構造は概ね妥当な水準にあるのではないかと言えそうである。

(注) 近畿圏の移転額が少ないのは、平成7年に起きた阪神・淡路大震災の影響が考えられる。

(資料)地方財務協会『地方財政統計年報』、国税庁『国税庁統計年報書』、国立社会保障・人口問題研究所『第4回人口移動調査』等をもとに、MRI推計。

図7 居住地ベース移転額と出身地ベース移転額の比較

 

【付表2】地域別収入、支出、移転額等                 (百万円)

 

 

居住地ベース

収入(a)

出身地ベース収入(a)

支出(b)

居住地ベース

移転額(a)-(b)

出身地ベース移転額(a)-(b)

一人当たり収入(千円)

1

北海道

3,581,383

3,994,263

5,436,080

1,854,697

1,441,817

628.1

2

東北

6,917,995

10,171,457

10,310,414

3,392,419

138,957

560.7

3

北関東

4,252,923

5,087,054

4,499,634

246,711

587,421

607.4

4

東京圏

30,565,444

22,337,707

20,033,899

10,531,545

2,303,808

930.8

5

中部・北陸

6,733,167

7,878,795

7,759,279

1,026,112

119,517

673.2

6

名古屋圏

8,471,122

7,645,480

6,976,494

1,494,628

668,986

777.3

7

近畿圏

15,736,971

14,078,292

15,311,176

425,795

1,232,884

760.3

8

中国

4,912,186

5,720,208

6,084,303

1,172,117

364,095

632.4

9

四国

2,571,557

3,341,231

3,650,371

1,078,814

309,140

615.6

10

九州・沖縄

7,442,309

10,078,935

11,123,407

3,681,098

1,044,472

504.8

 

合計

91,185,056

90,333,423

91,185,056

 

 

 

(注)出身地ベース収入の算出には外国は除いているため、支出と同額とならない。

(資料)地方財務協会『地方財政統計年報』(平成11年版)、国税庁『国税庁統計年報書』(平成9年版)、税制調査会『国の予算』(はせ書房、平成9年度版)、自治大臣官房地域政策『行政投資』(地方財務協会、平成10年版)、国立社会保障・人口問題研究所『第4回人口移動調査』、総務庁統計局『平成9年推計人口』をもとに、MRI推計。なお、数値は平成9年度のものを利用しているが、『行政投資』のみデータの制約上、平成8年度を利用。


さらに、各地域における居住地ベースの移転額をy軸、出身地ベースの移転額をx軸にとり、各地域を(x、y)座標上にプロットしたものが図8である。

これによると全体的な傾向としては右上がりの分布を示しており、居住地ベースと出身地ベースの移転額にはおおむね比例関係が成立していると言える。また、原点を通るy=xの直線を引いてみると、東京圏、東北、九州・沖縄の3地域を除く地域は、ほぼこの直線の近傍に位置しており、出身地ベース、居住地ベースの移転額に差が余りない。すなわち、人材移転による収入への影響が少ない地域であるといえる。逆に、東京圏、東北、九州・沖縄は人材移転による収入への影響が大きく、転出者が転出先の居住地で得た収入貢献見合い相当額を出身地に還元して然るべきとする考え方に従えば、財政移転の必要性の高い地域であると言える。

(注) 近畿圏の移転額が少ないのは、平成7年に起きた阪神・淡路大震災の影響が考えられる。

(資料)地方財務協会『地方財政統計年報』、国税庁『国税庁統計年報書』、国立社会保障・人口問題研究所『第4回人口移動調査』等をもとにMRI推計。

図8 居住地ベース移転額と出身地ベース移転額の関係

 

5.おわりに

 本試論では、まず、財政移転が行われている状況を明らかにするために、各自治体及び各地域における居住地ベースの収入・支出構造を推計し、その差額(移転額)を明らかにした。次に、各地域の出身地構成をもとに、出身地ベースの収入・支出構造及び差額(移転額)を同様に試算した。

さらに、これらを比較・分析することにより、大都市圏において地方部の出身者が多いことがどの程度、財政移転の必要性について説明力があるかについて検討した。検討の成果は、以下のようにまとめられる。

 

@国による調整を排除した形で、東京圏をはじめとする大都市圏から地方の各地域への財政移転の現状が明らかとなった。

A上記の移転額を出身地ベースで試算し直すと、各地域の移転額の平準化がみられ、大都市圏からの極端な財政移転の構造は薄れる。

B転出者(人材移転)が転出先の居住地で得た収入貢献見合い相当額を出身地に還元すべきという考え方にたてば、東京圏、東北、九州・沖縄などは、財政移転の必要性の高い地域であると言える。

C結局、人材移転すなわち地方の大都市圏への人材貢献を勘案すれば、現在の財政移転構造は巷間言われるほど受益と負担のギャップが少なく、それなりにバランスしていると言える。

 

最後に、本試論は人材貢献を考慮した財政移転の状況を定量的に明らかにすることを企図したものであるが、データの制約上、かなり大胆な前提とデータ処理を行っている。そういった意味において理論的、データ的な精緻さには欠けるが、企図した目的には現在可能な範囲でかなり近づけたのではないかと思う。

今後、こうした観点からのデータ整備、理論及びモデル構築が進み、実態の解明、さらには実務行政への反映へと発展することを期待する。本試論がそうしたプロセスに一石を投じることになれば幸いである。

 

以上


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