論文番号
140著者名 榊山 勉・今井澄雄
論文題目 消波護岸の越波に関する数値シミュレーション
討論者 勝井(大成技研)
質疑
大変powerfulな解析法と思います.論文中の解析例は,(例えば図-8のスケールを100倍して実スケールに換算すると,H=8mに対してq=10m3/s/mのオーダー)qがかなり大きいケースだが,設計の対象となる,例えばq=2×10-4m3/m/sのような値に対応する越波現象に対しても,VOFは有効ですか.
回答
波浪条件(水深h=30cm,波高H=8cm,周期T=1.4s)は特に実スケールを想定して設定したものではありません.VOF法による計算が適用しやすいように,実験結果を参考にケーソン天端上で水塊となって越流状態になる条件を設定したものです.
「設計の対象となる,例えばq=2×10-4m3/m/s」の越波流量は不規則波による平均越波流量のことだと思います.不規則波の一波毎の越波流量は平均越波流量のおおよそ10倍から100倍のオーダーになります.このなかには飛沫としてではなく,水塊として越流するものもあるます.このような水塊が越流するような現象はVOF法で計算できます.飛沫が飛散するような現象に対してはできないことはないかもしれませんが,実用に供するかが問題でしょう.すなわち,VOF法では計算メッシュ(セルと呼ぶ)内の流体の占める割合を計算して自由表面を決定します.したがって,計算メッシュを細かくすれば良いわけです.計算のアルゴリズムからも流体塊が飛び散る現象も対応できるようになっていますので原理的には可能と思います.
ついでに,VOF法による計算と実際の越波の現象の差について気づいたことを付け加えておきたいと思います.VOF法では,セル内に流体が占める割合をFで表し,Fの値に応じて次のようにセルの名称とフラグをたてます.
流体セル:F=1,表面セル:0<F<1,気体セル:F=0
自由表面境界では,流体セル−表面セル−気体セルの列びが存在しなければならなく,これが表面セルを決定するための拘束条件になっています.したがって,
0<F<1の表面セルが複数個で面的にならぶような状況は計算では扱えないことになります.一方,実験では越波には気泡が含まれる場合が多く観察されます.このような計算とのギャップはVOF法のアルゴリズムでは埋めようがなく,混相流のアプローチが必要となります.このようなことを考えると
VOF法の適用が意味がないと捉えられてしまうといけないので,長くなりますが,さらに付け加えます.平均越波流量は設計の指標になって使用されていますが,平均越波流量は,越波現象そのもの,実体を現していません.実際の越波流量は1波毎に異なり,先に示したように最大越波流量は平均越波流量の
10倍から100倍のオーダーになります.このような最大越波流量を対象に設計するかは構造物の重要度に応じるものでしょうが,最近,1波毎の短時間越波流量が実験で測定されるようになってきました.現時点ではプログラムは不規則波の計算には対応していないので,最大波を用いて規則波で代用することになりますが,このような不規則波の短時間越波流量を推定するには使えると思います.目次に戻る