論文番号
168著者名 河合弘泰・藤咲秀可・鈴木康正・高山知司
論文題目 既設の防波堤堤体の被災遭遇確率および期待滑動量
討論者 藤原隆一(東洋建設鳴尾研究所)
質疑
摩擦係数には,マウンドが変形して堤体が少し変位したところで一定値となるような傾向がある.信頼性設計の中で,摩擦係数をどのように考えたら良いか.
回答
本論文では,滑動遭遇確率を「耐用年数間に滑動安全率が1を切る確率」と定義し,「堤体が滑動するかしないか」という「1か0の議論」をしている.堤体に作用する波力が摩擦抵抗力を上回ったとしても,その作用時間が非常に短ければ,波力は堤体やマウンドの変形によって吸収され,堤体は滑動しないと考えられており,このようなことは模型実験の結果をもとに提案された合田の波力公式でも考慮されている.したがって,滑動遭遇確率を考える上では,堤体の変位による摩擦係数の変化は考慮する必要がない.
一方,期待滑動量については,個々の来襲波に対する滑動量を耐用年数間に渡って積分することによって求めており,堤体の変位に伴う摩擦係数の変化を考慮して滑動量を評価する必要がある.また,大きな波が連続して来襲する場合には,バラバラに来襲するよりも滑動量は増大することも考えられる.このような波の連なりまで考慮できれば理想的であるが,個々の来襲波による滑動量を単純に合計して期待滑動量を求めているのが現状である.
なお,現状では,実物に近い縮尺で行われた模型実験の結果を踏まえ,摩擦係数のばらつきを正規分布で与えているが,さらに検討を進める必要がある.しかし,滑動遭遇確率や期待滑動量の値に対する影響を考えると,沖波波高の推定誤差の与え方を検討する方が早急な課題であると考えている.