論文番号 185

著者名 高山知司・吉岡 洋・山元淳史・岩井 卓・鳥井正志・関田欣治

論文題目 多点ブイ係留時の大型タンカーの動揺と係留力に関する現地観測

訂正

 表-1 の実測された波向きがEとなっているが,本文にあるようにENEが正しい.

 

討論者 斉藤 勝彦 (神戸商船大学)

質疑

 (1)GPS測得データの信頼性について

 (2)図-7の二つのデータのシフトは船のトリムによるものではないか.

 (3)係留・荷役限界動揺量は?

 (4)動揺の周期特性は?

回答

 (1)メーカーの仕様性能では,リアルタイムキネマチックモードの場合,測位距離精度は水平1cm,鉛直2cmです.一方,計測値からGPS2点間の距離を求めると,固定点の距離なので一定の値(約40m)になるはずですが,標準偏差で,0.5cm,最大最小幅で5cm位のばらつきがでました.今回の観測の精度はこの程度と言っていいでしょう.

 (2)喫水は船首付近と船尾付近の2カ所で計られており,GPSは船尾付近に設置されているので,図-7の喫水には船尾の喫水を用いている.したがってトリムによる誤差は少ない.元々GPSの高度値は地球楕円帯に準拠したものであり,現地の水準点の高度に合わせるために,定数値(久慈では37.5cm)を引く.一方は潮位記録値に検潮所の基準面高度を足し,さらに船尾喫水変化とGPS設置点の船底からの高さを足したものである.両者の変動量のずれは,GPSと検潮記録および船尾喫水の読みとり精度に依存し,船尾喫水の読みとり誤差が最も大きいであろう.両者のシフトはGPSの定数補正値と検潮基準面高度とGPS設置点の船底からの高さの精度に依存するが,GPS設置点の船底からの高さの精度の誤差が最も大きいと思う.

 (3)限界動揺量は海底配管とタンカーのマニホールドを結ぶ送油ホース(マリンホース)の安全な移動範囲で決定される.送油ホースの海底側は固定されており,タンカー側の接続部がタンカーの運動に追随するので,この時のホースの許容曲げ半径が守れる範囲がタンカーの荷役限界動揺量になる.久慈港の多点係留バースでは余裕も含め,X−Y方向とも±15mとして設計されている.なお,係留限界はホースをはずした状態を想定しているので,動揺量で限界とせず,係留張力で限界を規定している.

 (4)実測および解析による長周期変動周期は以下の表に示す.

 

             実測値       解析値

                  初期張力大 初期張力小

        SURGE 450sec    90sec  〜 670sec

        SWAY 約450sec    220sec 〜 420sec

        YAW  約250sec    180sec 〜 320sec

 

 数値計算ではパラメーターの設定の仕方でこの周期が変わる.現在,各係留ラインの初期張力の影響が最も大きいと考えている.論文掲載時の解析では7点の係留ラインの内,荷重計測した2点の値から各ラインの初期張力を仮定したが,この値を数tf変化させることで,係留力は余り変化しないが長周期動揺周期は表に示すように大きく変化した.これは初期張力の設定により,各係留ラインの釣り合い初期状態が決まり,それが長周期運動の固有周期の計算に影響するためである.

 

討論者 大澤 弘敬 (海洋科学技術センター)

質疑

 表-1の結果を見ると実測と計算でサージングに差異が見られますが,この原因はどのようにお考えでしょうか?

回答

 サージ方向の係留バネは船首側の2本のブイラインと船尾側の沈設式係留ラインが支配的です.この沈設式係留ラインは他のラインがブイを伴う「柔らかい」バネ特性に対し,海底からタンカーへ直接カテナリー係留する比較的「堅い」バネ特性です.一方,数値解析上で各係留ラインの初期張力が長周期運動の周期に大きく影響することがわかり,初期計算時に設定した初期張力値がやや大きめの値であったことが分かってきました.ブイラインは比較的「柔らかい」ため初期張力の減少による張力および変位の変動量変化は小さいですが,沈設式ラインは初期張力の低下によりバネ定数が「堅い」領域から「柔らかい」領域に入り,張力変動に対し,動揺量が大きくなります.このため,論文掲載時の計算では動揺量が小さめ,係留力変動が大きめになったと考えています.

 

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