論文番号 221

著者名 灘岡和夫・内山雄介・瀬崎智之

論文題目 夏季の内湾性砂浜海岸周辺の水温・DO・クロロフィルaの変動特性について

討論者 田中昌宏(鹿島技研)

質疑

 1. 海底面での熱の出入りが全体に占める割合は?

回答

 論文中の数値実験における,日射量ピーク時の

1.「水面での日射量」に占める「海底面に到達する正味日射量」の割合

2.「海底面に到達する正味日射量」に占める「海底面から海水中への顕熱輸送量」の割合をそれぞれ示す.

 まず,日射の消散係数γが大きい場合(γ=1.6)では,水深を3.5mに設定したrun-1,run-2では1.1.0%以下,水深を2.0mに設定したrun-3では1.約2.0%と水温構造に有意な影響を与える値ではないが,日射の消散係数を小さく(γ=0.1)設定したrun-4では1.23%,2.98%となり,水温構造にかなり大きな影響を与えているものと推察される.一方,本文中では触れなかったが,日射の消散係数を大きく(γ=1.6),同時に水深を1.0mに設定した計算から,1.約10%2.約90%と,海底面における海中への熱フラックスが有意な大きさを持つという結果を得ている.これらのことから,本研究で対象とした「極浅海域」における水温構造を解析する際には,海底面での熱収支を考慮することが必要であると考えている.

質疑

 2. 光の消散係数はどのように決定したのか?

回答

 本論文で示した数値実験は,水温構造に対する各パラメータの依存性を把握するべく行ったものであり,数値実験結果と観測値との定量的な比較を行ったものではない.そのため,消散係数をはじめとする各パラメータについては,既存の観測値を参考にして,計算対象とした海域での典型的な値であると考えられる値を与えている.具体的には,run-1等で与えた消散係数1.6は,本研究対象水域より消散係数が小さいと思われる東京湾奥水域(千葉港湾事務所幕張波浪観測塔周辺,水深10m)で19928月に行われた観測値1.2(佐々木ら,1993,海講),および消散係数が大きいと思われる霞ヶ浦で19888月に行われた観測値1.65(石川・田中,1990,土論)を参考として,非常に濁った海水での値を想定したものである.また,run-4で与えた消散係数0.1は,19958月に茨城県鹿島灘において行われた観測値(八木ら,1996,年講)を参考に,透明度の高い外洋性水域での値を想定したものである.また,本研究で対象とした内湾性極浅水域では,植物プランクトンをはじめ生物活動が非常に活発であり,日射の透過率と密接に関連するクロロフィルa量が短期的にも大きく変動する事が,その後の観測によって判明している.つまり,このような水域の水温構造を定量的に把握するためには,一定の日射透過度(消散係数)の条件下で行う数値計算では不十分であり,クロロフィルa濃度等の時空間的な変動を何らかの形で考慮することが今後必要になるものと思われる.

 

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