論文番号
222著者名 宗景志浩・中川倫寿・長谷川浩・井関徹也
論文題目 浦の内湾における差し込み直後の水質悪化と物質輸送について
討論者 鹿島技研・田中
質疑
1.硫化物の表層への輸送に伴って青潮が発生する可能性はどうか?
2.表層の黒色化の原因は?
回答
1.1990年頃に、差込直後に海面が鮮やかな青色〜緑色に着色したしたことがあったため、その後、硫化水素、Fe、Mnなどの微量元素についても分析しております。栄養塩、H2S(S2−)などは差し込み直後に底層から湾奥上層に巻き上げられている様子が窺われます。硫化水素については底泥直上水中で2〜3ppm程度になるものの、表層ではほかの微量物質(金属類)も含め高濃度で検出されないことから、東京湾で見られるような明瞭な青潮にはならないと思われます。差し込みが多量の溶存酸素を補給し、底層で貧酸素水塊を破壊してしまうからかもしれません
2.溶存態及び懸濁態の微量物質についても分析しましたが、周辺に工場などがないためか、特に金属類の濃度が薄く、これといって確定できるまでには至っていません。
討論者 港研・村上和男
質疑
1.図ー9の海水輸送量の算定法を教えて下さい。
2.海水交換では水質の浄化に結びつかない汚染の最大の理由は何ですか。
回答
1.本文”2.2 差し込み時の物質輸送量の推算法”に述べた物質収支式を用います。この中で、トレーサーとしてC0〜C6は各観測期の平均塩分を用います。従って、負荷量P1〜P4 =0とします。さらに、潮汐による海水交換率γTは過去の報告で0.1程度と推定していますので、これを用います。また、Rやqtについても既知量として与えます。
2.浦の内湾は閉鎖性が強いため潮汐による交換は小さい。しかし、差し込みがあれば海水交換はある程度進むものと思います。しかし、海水に含まれる栄養塩などは、プランクトンを介して溶存態から懸濁態へと変換をとげ、差し込みに伴う鉛直循環に乗って湾口側上層まで運ばれても、湾口側滞留域で沈降し再び湾内に戻ってしまうため、差し込みが有効に浄化に結びついていないと思われます。また、汚染の最大の原因は魚類養殖に伴う有機物(T-N)負荷で、年間200ton、総供給量の54%と推算されます。これらの大部分は海底に沈降し、泥中で分解され、夏には貧酸素化に伴って溶出し、水質悪化の原因となっています。