論文番号 72

著者名 佐藤愼司

論文題目 強風と高波により発達する沿岸域の大規模流れに関する研究

討論者 三村信男(茨城大,都市システム工)

質疑

 石川海岸における流速の観測値(図−3)が,南北に振動しているのは,太平洋

沿岸でみられる陸棚波の存在を示唆しているのではないですか.

回答

 陸棚波やケルビン波が存在すれば,日本海側では南から北へと変動が進行することになる.図−4に示した(沿岸方向に約30km離れた)新堀川沖のデータと比較しても,流れの変動が伝播したことは確かめられなかった.局所的な風のみを考慮する数値モデルで流れの特性がある程度説明できることから,本観測期間の流れは風に起因する境界地衡流が主たる成分と考えている.

 

討論者 清水琢三(五洋建設)

質疑

 (1) 連続データが取得されているのだから,流速の長周期変動についても通常のサーフビートより長い周期も含めて議論すべきだと思う.

 (2) 光電式砂面計で,砂移動が生じると砂面が下がる結果が得られているが,時化時の砂面の時間変化が正確に計れるわけではない(例えば清水ら,1993).時化前後の差のみが意味を持つと理解すべきである.

 (3) 沖合い流速を評価する数値モデルの中で,風の影響に加えて波の影響を簡単な形で加えているが,その物理的な意味を教えて欲しい.

回答

 (1) 本論文では,20分間データの平均値の時間変化を議論しているので,数十分程度以上の変動成分を議論の対象としていることになる.通常のサーフビートの変動に代表されるような,もっと短い周期の変動についても今後検討していく予定である.

 (2) 光電式砂面計のデータの解釈には他にもセンサー棒周辺の洗掘の影響などを考えなければならない.今回のデータでは,砂面の急激な低下は,時化の開始時のみに現れており,時化が34日継続してもその期間の砂面の変化はあまり大きくない.従って,時化の開始時にみられる地盤低下は,洗掘などの影響ではなく,主として岸沖漂砂量の空間勾配によると考えるのが妥当であると考えた.

 (3) 波形勾配が大きい時には表面付近で white cap 状の砕波が生じていると考えられ,波の持つ運動量が流れに変換されていると考えられる.その場合,波向方向への流れの運動量が増加すると考えるのが自然であるため,(8)式の形で定式化した.係数 Cwの値は,風向と波向が異なる条件となった図−8に示した期間のデータから同定している.

 

目次に戻る