Civil Engineering Design Prize 2003, JSCE
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総評 作品選集販売のご案内
序文
現場の混迷に応えて−存分に力をふるってもらいたい

篠原修(東京大学 教授)
景観・デザイン委員会委員長
急旋回、一路前進の霞ヶ関

バブル崩壊後の霞ヶ関は、コスト縮減一点張りだった。景観よりもコスト、デザイン抜きのコスト、何はなくともコスト。国、自治体なべての財政難だからコスト、コストと言うのはわからぬではない。しかしコスト縮減はどちらかと言うと後向きの話だから、それがこうも長きに渡ると現場が次第に意気消沈し、暗くなっていくのも止むを得ない。仕事はますますつまらなくなり、やる気が出ない。
この土木超低空飛行に一条の希望の光を射しかけたのが平成15年7月に出された「美しい国づくり政策大綱」であった。景観、美しさを付加的なものと見るのではなく、公共事業本来の目的の1本の柱とすることが宣言された。余裕があればやるのではなく、常に景観を意識せよ。これはコスト縮減一点張り路線からの施策の急旋回である。
この一条の光に更なる強い光が続こうとしている。今国会で審議中の「景観法」という光である。これは昭和6年(1931)制定の自然景観を対象とした「国立公園法(現自然公園法)」に匹敵する都市・田園を対象とする法律となる筈である。平成16年(2004)という年は後世都市史に特筆される年となるだろう。

混迷を極める現場

景観、美しさを旗印に改革に向かう霞ヶ関とは対照的に、公共事業を担う現場の混迷は深まるばかりである。重すぎる課題が次々に降ってくる。重苦しくのしかかっていたコストに加え、住民参加という重しもかかってきた。住民はたまりにたまっていた行政不信を一挙に爆発させ始めた。対応に追われ時間はいくらあっても足りない。夜も土日も仕事だ。この情況に市町村合併の台風が襲ってくる。まちづくりを新規にやり直さなければならない。ここに更に美しい国づくり政策大綱、景観法が降りてきたのだからたまらない。この四重苦をどうしたらいいのか。茫然自失。これが偽らざる現場の、国の出先の、県の、市町村の、そして地元の設計事務所の、コンサルタントの姿だろうと思う。どこに解決の途があるのだろうか。

解決への途、それはデザイン力

コスト、住民参加、市町村合併、景観。これらは各々に独立で勝手な方向を持つベクトルであるように見える。問題毎に分析を行い、その延長線上に解答を見いだすといった受験型の教育に馴らされてきた頭には解決の途は見えない。鍵を握るのはどこかに在る解答を「見いだす」分析力ではなく、一見ばらばらなベクトルを持つ課題をかきまぜて、解決の途を「作り出す」統合力にある。別名デザイン力である。
様々な方向を持つ課題、例えばコスト、機能、材料、美しさ等を踏まえて一つの形を作り出すこと、これがデザインという行為の本質に他ならない。従って課題が増えれば増える程、条件が難しくなればなる程、デザイン力の重要性は高まる。現在のコスト、住民参加、市町村合併、景観の四重苦こそは現場にデザイン力があるのか否かを試しているのだ。
現在(いま)こそ、諸兄の出番である。コスト縮減の重圧下にあっても着々と実績を積み上げてきた諸兄こそが、腕をふるってもらいたいと待ち望まれている存在なのである。その実績、実力の程は、この「デザイン賞」で保証されている。存分に腕をふるってもらいたい、と思う。

総評
杉山和雄 杉山和雄(千葉大学教授)
景観・デザイン委員会 デザイン賞選考小委員会委員長
 本年は33作品の応募があった。当初は39作品の応募があったが、そのうち6作品は、応募作品に追加整備の計画があり、全体が竣工した後に応募したいなどの理由で辞退があったため、結局33作品の応募となった。作品の内訳をみると、橋梁14、河川5、公園2、駅および駅前広場5、道路3、ダム1、トンネル1、道の駅1、ゴルフ場1で、過去2年と同様に橋梁の応募が多かった。橋は適度なまとまりがあるため応募しやすいのかもしれないが、他領域でももっと応募されるよう望みたい。橋梁では他にも賞がある(例えば田中賞)が、他の賞との違いが徐々に認識され、デザイン賞ならではの作品の応募が数多くみられるようになってきたのは望ましいことである。本賞は他の賞との重複応募を禁じているわけではないので、重複を気にせずデザイン賞へも応募して頂ければ幸いである。
 昨年は過剰と思われる飾りに身を包んだ作品とか、単に植栽を施しただけの作品というのが幾つかあったが、本年はそうした作品は姿を消している。本体自体をなんとかまとまりのある形にして美しい景観を形成しようとする姿勢の感じられる作品が多くみられ、好ましい傾向として受け止めた。したがって、こうした作品群の中にあって、まとまりのある形にする努力が不足している作品は、その技術的成果の大きさにかかわらず賞の対象から外れていった。
 逆に腕が立ちすぎたのか、素直に解決できるところを無理やり複雑にした作品、言わば捏ね返したような作品もいくつかみられた。素直に解決したのではデザインとして面白くないと思ったのであろうか?確かにこうした作品には一定の刺激を受ける。だからと言って意味もなく複雑にしてもそれはある種の飾りたてにしか見えない。そのものが本来有すべき美しさは、そのものに求められる要求や要請に対して素直に応えつつ、かつ上手い解決を図ったところにあるものであろう。こうした作品も賞の対象からは外れていった。
 公園や駅のようにデザインする対象が多い作品では、的が絞りにくいのか、デザイン意図の説明が羅列的になりがちである。選考委員が作品を実見しても、公園あるいは駅全体をどのようにデザインしようとしたのかが伝わってこず、個々の対象の評価しかできない作品はやはり賞の対象から外さざるをえなかった。中核となるデザインのねらいはある筈であり、それを適切に説明することが望まれる。説明の焦点がぼやけているということは、デザインの意図もぼやけていたのではないかと思わせる。
 以上のような審査の結果、本年度は最優秀賞4点、優秀賞6点を選出した。応募点数は昨年よりもやや少なかったが、これらの受賞作品は過去2年と遜色のないレベルものである。加えて本年は特別賞1点を授与することとした。わが国に景観・デザインの思想を根付かせたような極めて先駆的で、影響力の大きい作品は最優秀賞とか優秀賞という賞は似つかわしくなく、何か別の賞を設定した方がよいという議論が昨年もあり、本年度から「特別賞」という賞を設けてそうした作品を顕彰することとした。本年応募のあった太田川基町護岸の作品はすでに高い社会的評価を得ており、最初の特別賞を授与するに相応しい作品であると確信している。
 最後に、本年からは懸案であった賞牌を授賞作品の主な関係者とその所属組織、および主な関係組織を対象に、希望により販売することとなった。これは、土木学会の他の賞では賞状だけでなく、賞牌も用意されているので、デザイン賞でもぜひ賞牌を創って欲しいという要望があり、これに応えたものである。本デザイン賞は優れた作品を生み出した人にも焦点を当て、その方々に敬意を著すとともに、その方々を顕彰することを通じて土木デザインの質の向上を図ることを目的としているが、賞牌がその一助となれば幸いである。
選考を終えて
石川忠晴 デザインとDesign

石川忠晴(東京工業大学大学院教授)
 「環境水理学」というのが私の専門で、普段は船に乗って現地観測をしたり水環境の数値シミュレーションをしたりしている。だからデザイン賞の選考という仕事に適任だとは自分でも決して思わないのだが、「専門の見地から是非」「主観的で結構」という依頼を断りきれず、主に水に関わるものについて主観的意見を述べ、結論は委員会全体の判断に委ねるということでお引き受けした。
 「デザイン」というカタカナを辞書で引くと、主に形・模様・色の構成工夫と、装飾的考案という意味が書いてある。つまり、洋服とか住居の意匠などがその典型で、human scaleの視覚的設計を指すようである。一方、横文字の「design」を辞書で引くと、企画すること、立案すること、構想をまとめること、といった意味が最初に出てくる。私自身の専門は後者の方なので、その観点から意見を述べた。
 例えば、護岸とか堰とかの河川構造物をデザインする場合に、デザイン者は、河道の線形や断面形状を「所与の条件」とみなしている。また、駅前広場のデザインでは、用意される空間の形や広さと周辺の土地利用等が「所与の条件」となる。しかしそれらは、デザインを委託する者達がdesignしてきた結果であり、土木のグランドデザインは両者が一貫してはじめて価値あるものになる。
 そこで私は、デザイン賞の対象となっている上物についてだけでなく、その基盤部分のdesignがちゃんとしているか、基盤のdesignと上物のデザインが整合しているかどうかを見させていただいた。土木の仕事は基本的にチームプレイである。上物の設計をした者と基盤の設計をした者が、良くできた場合の名誉も、悪くできた場合の責任も、(表彰状に記名されるかどうかにかかわらず)共同して受け取るものである。
石橋忠良 選考委員を引き受けて

石橋忠良(東日本旅客鉄道(株)構造技術センター所長)
 今回初めて選考委員を努めさせていただきました。景観設計や、デザインを専門としているわけでなく、構造や、設計施工のほうが専門なので、辞退したいと申しましたが、構造面の人が委員の中に必要とのことで、引き受けました。
 審査に当たって、実際に見てくることが必要との委員会の方針で、私も数件の作品を担当しました。期限内に、担当した作品を、現地にて見るというのは、作品が各地に存在していることから、時間的にも、またその作品の存在している場所を探すのも大変であることがわかりました。今まで委員をやられてきた皆様の大変さがわかりました。しかし、応募資料の写真での印象と、実構造物では、周辺地域との関係や、スケール感などかなり異なり、実際に現地で実物を見て選考するということは、大変なことではあるが重要であると感じました。見る場合の、季節や、時間などによっても印象が異なることもあるだろうとも思いながらも、予算や期間から限定された時での調査もやむをえないであろうと思いました。もうひとつの特徴である、完成されて使われだしてからの作品に対する調査ということも大いに意味があると感じました。完成直後にはわからなかった問題点がしばらくすると出てきます。設計者の意図したとおりに機能も維持できているか、配慮不足で問題が生じているかということも、完成後数年した状況を見ることで判断でき、評価の面で大切なことだと感じました。作品は実社会で使われるものであり、デザインのみでなく,使用性や、耐久性も大切な評価の要素だと思います。
 直接見たものについては、個人としての判断はしっかりできるが、見ていなく写真での物については、スケール感などが異なっている恐れもあり、現地に行った委員の意見をかなり参考に判断することとなりました。
加藤源 橋梁以外に優れたデザインが少ないのは何故か

加藤 源(株式会社日本都市総合研究所代表)
 土木学会デザイン賞も今年を含めて3年が過ぎた。まだ早すぎる感もあるが、少し気になっていることがあったので、過去3年の受賞作品について振り返ってみた。気になっていたことは受賞作品の中で橋梁が圧倒的に多いことである。
 過去3年間の受賞作品数は部門別に、橋梁20、河川4、公園・広場4、街路・道路7、その他5(地区環境整備、防波堤、トンネル、ダム、シンボル・ゲート各1)という状況で、丁度半数が橋梁である。03年度だけに限っても、特別賞を除いて9作品のうち、6作品までが橋梁で、さらに多い。また、賞にもれたものも含めて応募作品全体で見ても橋梁が圧倒的に多い。
 つまり、橋梁以外に優れたデザインが少ないということである。これは一体何を意味するのであろうか。橋梁は一時代前から土木デザインの花形で、従って、土木デザインに関心を持つ者の多くが橋梁のデザインに取り組んでいる。橋梁は他の土木施設に比して、立体性が高く、また大きな空間の中に置かれ、シンボル性も高いためにデザインに力が入る。広場・公園、街路・道路は土木以外の分野の人が携わっている場合が多く、当デザイン賞への応募が少ない。等々であろう。
 まだ、他にも多くの理由が背景になっていると思われるが、公共事業の中で橋梁の建設は少ない方であろう。であるとすれば、やはり橋梁以外の施設について、橋梁ほどにはデザインに力が入っていない、あるいは土木分野からの参加が少ないということが理由であると考えざるを得ない。生活の質の向上が強く問われ、都市化の時代から都市の時代にある今日、またさらにこのような指向や変化がより顕在化するこれからの時代に向けて、都市空間の中にあって、人びとにより身近な土木施設である街路や道路、公園・広場、また河川等のデザインに力を注いでいくことが期待される。
川崎雅史 デザイン賞の選考を終えて

川崎雅史(京都大学助教授)
 選考会は、申請資料の設計意図と実見による検証をもとに、長時間に及んで真剣な議論を行った。地域や風景に馴染む美しさ、単体や構造体としての美しさ、これまでにない新しい形を提案しているかなど幅広い視点からの評価が行われた。最優秀を授賞した作品のように力強く総合的に完成された作品については審査員の評価内容は、ほぼ一致した共通の議論がなされた。しかし、総合力はなくても一つでも光る特化した部分を見落とさないことに力が注がれたために、異なった意見が数多くだされ、審査員間の厳しい議論のやりとりが続くこともしばしばあった。デザイン賞を授賞した作品が後生の事業に先導的な役割を果たす影響が大きいからである。我が国の社会基盤施設において、過去に実績のない新しい構造やデザインが採用されることは極めて難しい。表面的な形を模倣するのは悪しきことであるが、作品の本質的な長所を理解することや制作の過程を知ることは大変勉強になる。したがって、作品集の中に参考にしたいと思われる授賞作品があればどの部分が評価されたのかを正確に読みとって欲しいし、図面を丹念に追って欲しい。そして、ぜひ現実の作品を見聞して欲しいと思う。これからのデザイン賞の作品の蓄積がこれからの公共空間のあり方を大きく誘導するものと確信している。私は今回初めて審査員に加わったが、改めて土木デザインの達成の難しさについて認識した。残念にも授賞されなかった作品の中には、コンセプトや当初のデザイン案が優れたものであっても、長期間の中で関係者の調整の難しさや設計体制の変更などによって当初の計画が遂行されなかったものが見られた。このような理由で応募に参加できない作品も数多くあると思われる。しかし、公共事業において土木デザイナーが設計業務に自由に参画することができ、より社会的に認められる存在になるためにも、これからのデザイナーの人達に頑張ってほしいと思う。
齋藤潮 選考を終えて

齋藤 潮(東京工業大学大学院教授)
 考えさせられたことを4点ほど。
 おさまりがよく垢抜けているけれどもクールな印象があきらかに今風を気取ってそれ以上ではないという作品がある。いっぽうに、どこか素人臭くて野暮ったいけれども独自の創意工夫が偲ばれるという作品があって、今回は、前者に対して比較的厳しい評価の傾向がでたように思う。前者ばかりがずらりと並ぶと、たしかにいいかげんにしてほしいという気にはなる。きれいな仕事とよい仕事は違うという考えが頭をもたげてくるのである。
 駅前広場はつくづく難しい。交通動線や管轄の問題からくる制約の上に、実に多くの要素をレイアウトしなくてはならない。しかも、周囲の建築物や広告物はほとんどコントロールできない。アメニティを高める装置も過剰になれば徒に喧騒を生み、下品になるし、抑え目にしても広場できちんと所を得なければ、かえって作者の自己満足の産物かと思えるような卑屈な印象を与えてしまう。持ち込む要素を極力省いたらどうだろう。
 デザインの直接の対象を単独に問題にするのではなく、それが周囲の景観の中でどうあるべきなのかという課題設定こそは、このデザイン賞の注目するところであるのだが、これはという作品が容易に登場しない。そのねらいを強調する作品があっても、かたちの問題にとらわれすぎているし、概念的な解釈を先行させがちで直観的な了解が困難なのである。1960年代以降しばらく流行した建築のコンテクスチュアリズムがほとんどの場合、小難しい記号論的解釈と嘘臭い形態の類似でしか作品を提出し得なかったのと同様、結局のところ、周囲の景観を意識するという姿勢ももののかたちから一旦離れ、さらには意識することすらしないというところまでいかないと、本物にはならないのではないか。
 総じて、言葉でデザインの必然性を説明しようとすることの悲しさを、つくづく思った。ほとんどの解説は結果の後付けのようにしか響かない。あるいは設計者の切実な意識が伝わってこない。クライアントや住民に向けた「わかりやすい」説明をもって、応募書類の解説に充当しているためだろうか。それとも、プロとして苦悩した果てのデザインではないということをここに露呈しただけのことだろうか。
内藤廣 選考を終えて

内藤 廣(東京大学大学院教授)
 景観デザイン賞の審査という難しい役割を果たせてホッとしているところです。良い作品が選べたのではないかと思っています。難しい、と書いたのは、評価基準が審査員の主観に依る所が大きかったからです。この曖昧さは、非難されるべきことではないと思います。審査されるのが、定性的なデザインなのですから。もともとこの種の賞には明確な審査基準など作りようがないのです。審査員の眼力と見識、さらには人格によって選ぶべきものです。それだけに、審査することは、同時に、審査員の力量が審査されることにもなります。難しい、と書いたのは、私自身の力量が問われているように感じたからです。建築分野やデザイン分野の審査員をいくつか務めましたが、どれも似たような感触を持ちました。
 五十余年の歴史をもつ日本建築学会賞は、建築界でもっとも権威のある賞として揺るぎないものです。賞の規定には、「学術、技術、芸術に貢献するもの」という主旨の文が書いてあります。作品賞の場合は、この最後の項目が重視されることになります。これが基準です。審査する側の見識が問われる由縁です。私も審査に加わったことがありますが、過去の受賞作を見ても、審査員の顔ぶれによって、選ばれるものの質が大きく変わります。審査員の志が低ければ、これが受賞作かと疑いを持ちたくなるような下らないものが選ばれることもあります。これは審査員の責任です。しかし、伝統というもの、時間の流れというものは、おそろしいものです。10年、20年のスパンで俯瞰してみると、本来、そうした賞に値しないようなものは、きれいに忘れ去られていきます。振り返ってみると、その時代を画するようなものだけが受賞作として広く記憶されていくのです。
 したがって、まだ産声を上げたばかりの景観デザイン賞も、これから歳を重ねていくことが必要だと思います。歳を重ねることによって、賞も育っていくのです。賞は、その分野がみんなで育てていくものです。そのことによって、大きな意味での公平性を権威とともに確立していけるのではないかと思っています。
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