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海洋開発委員会のご紹介

2011年1月
海洋開発委員会委員長 柴山 知也

 海洋開発委員会は、その内規に規定されているように、海洋の開発保全についての調査・研究を実施し,その成果を社会に普及させることを目的に設置されています。1970年の設立以来、40年の歴史を経て、海洋開発に係る土木技術者、研究者の専門家集団として、確固とした社会的評価を確立していると言えましょう。

 しかしながら、1980年代以降、ポストモダン社会への移行に伴い、日本でも価値の多様化・個性化・情報化などが進展しました。専門家集団としての海洋開発委員会も、こうした社会の変容に対応する形で変化する必要性に迫られています。これまでの経緯を振り返ると、実際に1990年代後半から15年ほどの間に、日本社会における海洋開発分野を含む土木事業の位置づけと事業執行過程での仕事の進め方が大きく変わりました。土木事業の位置づけについては、明治以降の近代化過程で継続的に実行され、高度経済成長期に集約的に行われた土木事業は、産業基盤に偏重した社会基盤投資でしたが、それが生活基盤を優先し、環境を保全していく投資へと予算配分の構成が変わりました。また、仕事の進め方については、技術者集団内で閉じた形で遂行されてきた事業が、立案段階から使用者・生活者の視点を取り入れることや事業の必要性を経済学や社会学などの視点からも説明することが求められるようになっています。土木工学全体を見渡すと、社会学・美学・経済学に依拠した建設社会学やマネジメント論、景観論、ミクロ経済学などが土木工学の新しい下位分野として導入されましたが、これは土木技術者集団のレベルで進行した、社会変容への学問的対応に他ならないと言えます。

 さらに海洋開発に携わる技術者集団に対しても、海洋土木事業の目的の多様化に対応した技術開発や地域特性に応じた個性的な事業の企画などが求められるようになりました。例えば沿岸地域を津波や高潮から守る施設を建設する場合、市民を津波から守ることを主眼とした防災機能だけでなく、市民が水辺に親しめる効果や地域固有の環境上の配慮なども同時に求められるようになったわけです。こうした技術者集団で進行しつつある技術の多様化によって、海洋土木技術者個人に対しても、新たな資質が求められています。これまでのように構造物の機能や防災能力だけを念頭において設計・施行する技術力だけでなく、快適さや環境保全といった視点を併せ持つことや海洋開発分野以外の専門家と一緒に構造物を作る協働力などが必要になりつつあります。

 海洋開発委員会の歴史を紐解くと、初期の海洋開発シンポジウムでは、海洋技術分野の先生方と並んで、測量学やコンクリート工学の異分野の先生方が講演をされています。このように当初から多くの分野の専門家が結集し、海洋開発の実現を試みているところに、本委員会および海洋開発シンポジウムの特色が見られます。今後もこの伝統を守り、幾多の学問枠組みを結集して、海洋開発の目的のために研究活動を繰り広げていきたいと考えおります。

 上記に述べた海洋開発シンポジウムは、海洋開発委員会の発足時からつづいている研究者や技術者の研究発表や討論の場です。1970年の第一回のシンポジウムからシンポジウム講演集が作成されていましたが、シンポジウム講演集は、1985年から海洋開発論文集(Annual Journal of Civil Engineering in the Ocean)となり、2011年からは土木学会論文集B3(海洋開発)」特集号として編集いたします。本論文集は、土木の分野だけでなく、海洋全般の幅広い分野の研究交流・論文発表の場として認められています。今後もこの論文集に多くの優れた論文を投稿して下さいますようにお願い致します。



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