北アルプスの北端が日本海に落ち込む親不知は、北陸路一の難所として知られる。“親は子を、子は親を顧みることができなかった天険の地”に鉄道が敷設されたのは、旧北陸本線の泊-青海間が開通した1912(大正元)年10月であり、これに伴い旧親不知トンネル等、連続する4基のトンネルも竣工した。鉄道の開通により、行旅の安全と黒姫山から産出される石灰石の輸送量の増大等、地域経済の向上と拡大に大きく寄与した。鉄道は1965(昭和40)年に廃止となり、旧親不知トンネルはじめ橋梁・雪崩止め擁壁等が1974(昭和49)年に国鉄から旧青海町(現糸魚川市)に無償譲渡され、現在に至っている。
泊-青海間の開通に伴い竣工したトンネル4基の内、旧親不知トンネルは大きな損傷もなく保存状態も良好である。建造に係る設計図書および現在までの改築履歴の記録が不明であるが、現状を見た限りアーチ部にコンクリート覆工の跡が一部確認された以外は大きな改築はなかったものと思われる。トンネルの建造に関する記録としては、掘削は手掘りだったこと、海側から横坑を掘削して早期竣工を図ったことが『北陸鉄道全通記念録(武内家文書)』にあり、また、隣に位置する旧風波トンネルの掘削中に落盤があり、作業員12名が閉じ込められたが9日後無事に救助されたことが『明治42年度 鐵道院年報 國有鐵道之部』にあり(前記『竹内家文書』では7日後)、旧親不知トンネル等その他のトンネルは概ね順調に施工されたとある(『竹内家文書』)。
市では、現在、旧親不知トンネルを「老朽化した非採算施設」から「地域の近代化を牽引した貴重な地域資産」として位置付け、その活用方策として『親不知旧道(平成19年度選奨土木遺産)』との連携による周遊化・遊歩道の整備を企図している。そのため、平成25年度に同トンネルの健全度調査を実施(目視調査・打音調査・覆工構造調査・内空寸法調査:兜恁噬Gンジニアリング委託)、解説板の設置等とともに、トンネル内を歩くイベントもすでに2回開催している(「天険親不知と親不知煉瓦トンネルを歩こう」、平成25年8月24日、同年11月10日)。
このように、旧親不知トンネルを地域の貴重な資産として位置付け(平成22年度)、活用基本構想を策定し(平成24年12月)、安全性の確認を行うとともに既にその活用に取組んでいる。先に選奨された『親不知旧道』との連携による活用を図る中で、観光資源として、さらに地域開発の礎としての土木遺産の啓発に努めている。周遊化・遊歩道整備事業は県の補助金の採択内示を得、2015年の北陸新幹線開業に間に合うように進められている。