古来より板東無双の霊山と仰がれる筑波山の観光開発のため、地元の事業家により大正12年に筑波山鋼索鉄道株式会社が設立・着工され、大正14年にケーブルカーとしては関東地方では箱根登山鉄道(大正8年竣工)に次ぐ2番目に竣工・開業した。現在日本で運行中のケーブルカーでは、開業時期では三番目、路線の延長で三番目、高低差で二番目の歴史と規模を誇っている。
路線の特徴は、地形の改変を出来るだけ避け、地形に沿って路線を敷設したため、路線延長の1/3の区間がカーブ区間で90°の方向転換をしており、日本のケーブルカーの中でも希な存在である。また、このカーブ区間にある長峰隧道は、急勾配の曲線トンネルで、施工に当たっては硬岩(斑レイ岩)のためダイナマイトにより掘削し、コンクリートで覆工されており、現在も当時の姿で供用されている。トンネル建設の歴史の中で、長峰隧道におけるダイナマイト掘削、コンクリート覆工工事は、日本における当工法の黎明期に当たる。
路体については、概ねこの区間で当時のままの石積擁壁が見られるが、特に擁壁高の高い区間は、後年、前面にコンクリート造の擁壁を施工し補強されている。当ケーブルカーの機構は、軌道や車両、巻き上げ機は改修されているが、路体やトンネル等の土木構造物については、ほぼ当時の姿で供用されている。
筑波山周辺のつくば市等6市では、筑波山及びその周辺地域に、際だって特色のある地形や地質、自然が広がっていることから、平成28年度、日本ジオパークの認定をめざし、現在、推進協議会(会長:つくば市長)を設置し各種事業を展開している。この活動の中で、歴史的地域資源(土木遺産)としてケーブルカーの歴史、路線やトンネルの特徴などを紹介していくこととしている。ジオパークでは、地域の地質や地形、自然環境に関する教育及び学習の振興、更に新たな観光の創出を目指しており、ケーブルカーは、車窓から地質や地形、自然環境の観察に最適であると共に、公共交通機関として多くの方々に来園して頂くためにも重要な役割を果たすものである。茨城県を代表する観光地である筑波山における重要な観光交通施設として長い間役割を果たしており、また、車窓からは地平線や豊かな自然を見ることが出来る格好の視点場として、現在も、年間約40万人に利用されている。
当ケーブルカーは、茨城県における観光開発のパイオニアであり、現在も、当時の姿を引き継ぎつつ供用を続け、本県を代表する筑波山観光の重要な交通施設として、また、新たなジオパークの利活用施設としての役割も期待されている、大変貴重な土木遺産である。