報告書をとりまとめた背景
経済、社会の基盤となる電力、ガス、石油、石炭等のエネルギー関連施設は、大規模かつ広範にわたるため、その計画、建設、運用にあたっては常に周辺環境との係わりを考慮しつつ、適切な対応をはかる必要があります。エネルギー関連施設のうちでも、土木技術者が関与する施設は自然環境を改変して構築する場合が多く、常に環境に十分配慮した対応が必要であることはいうまでもありません。
1990年、土木学会エネルギー土木委員会の環境技術小委員会では「エネルギー土木と環境問題」と題し、エネルギー土木施設について環境の保全、利用、創造に係わる技術課題を全体的に捉えた報告書を作成しました。これは当時、エネルギー土木施設に係わる環境問題に求められる技術が時代の変化とともに変化してきており、それまで主体を占めてきた環境保全のための対策技術から環境影響要因を有効に利用する技術、さらには周辺環境との調和・協調をはかり積極的に環境を創造していく技術の必要性が高まってきたことが背景にあります。
報告書の内容は主として土木技術者が携わる分野の環境問題の現状と動向を概観するとともに、主要な環境問題を選定して問題発生の要因、周辺環境に与える影響、規制・基準の現状、環境影響予測と評価方法、環境保全対策の実態およびその効果、さらには環境利用技術や環境技術の研究開発状況などについて関係機関へのアンケート調査結果を含めてこれらの知見をとりまとめ、環境問題全般に対し土木技術者が取り組むべき方向性を論じたものです。
この報告書をとりまとめた当時の環境政策は1967年の「公害対策基本法」と1972年の「自然環境保全法」が基本でした。しかし、社会経済システムが大量生産・消費・廃棄型の構造に変化してくると、都市型・生活型環境問題や地球環境問題が顕在化し、企業の事業活動のみならず人々の日常生活に広く起因する環境問題に対応するためには従来の規制中心の前記二法では対応が難しくなってきました。このため、1992年の「持続可能な開発」がうたわれた地球サミットを踏まえ、環境政策の新しい基本理念や政策手法を示した「環境基本法」が1993年に制定されました。翌1994年には環境基本法に基づき環境基本計画が閣議決定されました。環境基本計画では21世紀半ばを展望して、「共生」、「循環」、「参加」、「国際的取り組み」の四つの長期的目標が示され、これに基づき21世紀初頭までの国の施策と事業者・国民など各主体に期待される役割が示されたものです。
土木学会は「持続可能な開発」を実現するための行動計画の策定・実行の呼びかけに応え、1994年に「土木学会地球環境行動計画 ーアジェンダ21/土木学会ー」をとりまとめました。そこには 会員に期待される行動原則が示されており、地球全体の持続可能性に配慮した開発を行う必要性のあることを自覚するとともに、地球環境問題に関心を払い、広く情報を収集し、種々のレベルの環境教育を積極的に指示し、参加し、自己の啓発に努めることがうたわれました。
環境技術小委員会はこれに呼応する形で1994年に「地球規模環境問題に関する調査・検討」として、その時点での地球規模環境問題全般を概観のうえ、エネルギー分野と係わりの深い温暖化問題を中心にエネルギー土木施設への影響についての現状と課題をとりまとめて報告を行いました。
また、環境技術小委員会では上記活動に加え、今日の環境問題への取組みのキーコンセプトである「共生」、「循環」に着目し、エネルギー土木分野において展開されてきた自然環境共生技術、地域生活環境共生技術、リサイクル技術の具体例や研究事例ならびに環境問題全般の最近の動向等環境情報について、文献調査やアンケート調査を実施し、収集に努めてきました。今般、これらの情報を整理し、「環境共生・循環とエネルギー土木」と題してとりまとめました。
これらの報告書は土木学会図書館で閲覧することができます。