講演題目:
「信頼される土木学会を目指して社会貢献を実践する」
わが国の工学会が1879年(明治12年)に創立され、その後土木学会が1914年11月に工学会から分離して設立されて、来年2014年に土木学会百周年を迎える。
明治時代に入り、わが国は治水、砂防、港湾、鉄道等の整備を進めてきたが、戦後1945年以来、全国総合開発計画等に基づき、治山、治水、道路・高速道路、港湾・空港、新幹線・地下鉄、電力、上下水道等の社会資本の整備を急速に進めた。
工学会発足から135年、土木学会発足から100年が経過して、これまでの歩みを振り返るとともに、今後の100年の世界を見通して土木界あるいは土木学会は何を為すべきか、土木学会の会員あるいは広く土木技術者は何を為すべきかを熟慮すべき時に至っている。
一昨年3月11日の東日本大震災発生以来、土木学会は東日本大震災特別委員会(この後継として東日本大震災フォローアップ委員会及び社会安全推進プラットフォーム)を設置し、調査、提言を実施してきた。今年3月には、「東日本大震災から2年~被災地の本格復興と日本再生への処方箋~」と題して、延べ4日間にわたるシンポジウムを開催し、復興への取組みの成果を発表した。百周年を迎える直前に大震災を経験したことを真摯に受けとめて、反省と熟慮が改めて求められている。
土木学会の今後の活動の重点課題は次のように考える。
- 東日本大震災からの本格的復興の着実な達成
特に津波被害、原発事故の影響を受けた地方については特別な措置・支援が必要である。 -
南海トラフ巨大地震、首都直下地震等についての防災・減災対策
特に巨大津波、火山噴火、液状化、大都市の火災等が致命的な被害をもたらす。 - 台風、集中豪雨等による河川氾濫・浸水、高潮、地滑り、斜面崩壊、土石流等についての防災対策及び地域防災計画の策定など
- 地球温暖化の抑制及びその減災対策
各国の利害を超えて世界的に議論すべきである。またわが国は気候・気象の激変の影響をより厳しく受ける恐れがある。 - 社会資本の適切な維持管理・更新
現状では大部分の分野で未熟であり、国民の資産の保全のために早急に対応すべきである。 - 国際交流、国際協力の充実
国際センターを中心に産・学・官が連携して進める必要がある。 - 国土形成計画の見直し
少子・高齢化社会を迎え、かつ安全・安心な国土を維持していくためにはわが国の国土を海域も含めていかに管理・経営していくか将来ビジョンの確立が必要である。
そして以上のような課題に的確に対応するためには土木の本質・原点を常に意識していなければならない。
- 対象とする自然を尊重し、保全する精神が絶対的な条件である。更に自然現象は複雑、多岐、不可思議な面が多い。真剣な科学的技術的調査・研究が不可欠である。
- 土木事業は主として公共事業として実施されることから、税金を負担している国民が直接のステークホルダーである。従ってこの評価は厳しくあるのは当然である。国民に評価される効率的、効果的な仕事をすることが強く求められるとともに、国民に対して十分な説明責任がある。
- 土木事業は公共性、公益性が強いものであるから、常に社会にとって公共、公正とは何か、公共の福祉とは何か、社会の正義とは何かを思索する必要がある。土木界全体として倫理観を研き、実践するとともに、積極的に社会貢献する姿勢が求められる。
- 土木は、長い歴史をもち、広範囲の分野に関係している総合性の強い学問であるので、広く、国際、社会、経済、他の工学等との連携が必要である。