令和二年度土木学会全国大会 Japan Society of Civil Engineers 2020 Annual Meeting

実行委員長挨拶

挨拶 令和2年度土木学会全国大会を迎えて

令和2年度土木学会全国大会実行委員長 堀田 治

令和2年度土木学会全国大会実行委員会

委員長堀田 治 国土交通省中部地方整備局長

「守る・攻める・変わる ~持続的な成長を支える土木の変革~」

 このたびの令和2年7月豪雨により、亡くなられた方々、被害に遭われた皆様に心からのお悔やみとお見舞いを申し上げます。また、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染により、亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を捧げますとともに、罹患された皆様の一日も早いご回復をお祈りいたします。

 さて、令和2年度土木学会全国大会は、本来ならば9月9日(水)~11日(金)の3日間、名古屋工業大学を主会場として、中部地方では実に8年ぶりに開催される予定でした。しかし突如として蔓延した新型コロナウイルスの影響により、一時は本大会を開催することが危ぶまれました。このような状況下、柔軟に開催形式を変えて大会を開催することが、土木の学術、技術の進展に寄与し、持続的な人々の生活に資することになると考え、学術講演会、研究討論会を拡充する形で、9月7日(月)~11日(金)の5日間、学会史上初めてのオンライン形式で開催することとなりました。このような英断を頂いた土木学会本部や関係者の皆様に感謝申し上げます。

 開催予定地であった中部地方は、首都圏と近畿圏の間に位置する我が国随一のものづくり産業の集積地で、我が国の経済発展を牽引し続けてきた地域です。また、過去から東西、南北の交通の結節点であり、現在も経済・文化の双方において様々なプロジェクトが進行している活発な地域です。その中心となる名古屋も、近年大きな変貌を遂げ、名古屋駅・ささしま周辺や伏見・栄地区の再開発やテレビ塔・久屋大通り公園のリノベーションも進み、街の風景も大きく変わろうとしています。

 平成元年以来31年ぶりに大会会場となる予定であった名古屋工業大学は、1905年に名古屋高等工業学校として創立されてから今年で115年になります。その間、我が国最大規模の産業集積地に立地する工科系大学として、常に社会と産業界の要請に応え、優れた学術研究や技術の創出と工学教育を行ってきました。土木の分野では、大正末期から昭和初期に、当時では革新的な「山本式鋼索型自動平衡跳上橋」と呼ばれる技術を開発し、橋梁技術者として全国多数の跳上橋の設計を行った「山本卯太郎」を筆頭に、数多くの優れた技術者を輩出しています。

 今年度の土木学会全国大会のテーマは、「守る・攻める・変わる ~持続的な成長を支える土木の変革~」としました。これは、土木界の現状、果たすべき役割や将来を鑑み、その使命である「人々の生命財産や質の高いインフラを守る」ため、他業界との積極的な連携や新技術の導入に挑戦し、この「守る」「攻める」を実現する変革が土木の革命となって、世界の持続的な成長を支える役割を担うことを社会へのメッセージとして発するため、現在のコロナ災禍が発生する前に設定したものです。その後発生したコロナ災禍により、社会はより大きく変革しようとしており、むしろ、更にメッセージ性が強く時宜を得たテーマになっているものと考えます。

 東日本大震災の翌年の開催となった前回の中部大会では、強靱な国土づくりの推進を訴えました。本大会では、「3.11東日本大震災リレーシンポジウム」を復興のマイルストーンとして開催します。しかし、その後も関東・東北豪雨(H27)、熊本地震(H28)、西日本豪雨(H30)、北海道胆振東部地震(H30)、令和元年房総半島台風・東日本台風に加え、今年の令和2年7月豪雨など毎年のように激甚な自然災害が発生しており、中部支部管内においても、昨年の台風による千曲川の堤防決壊や今年の飛騨地方を中心に発生した甚大な被害は記憶に新しいところであり、それらからの適応復旧が急がれるところです。阪神淡路大震災から25年、東海豪雨から20年が経過し、その間に強靱な国土づくりは着実に進展しています。昨年の豪雨災害時に洪水氾濫を防いだ狩野川放水路のように、これまで整備してきたインフラは確実に効果を発揮してきました。しかし、今なお、南海トラフ巨大地震や気候変動の影響による広域的な豪雨災害など、より巨大化する災害に備えるとともに、新たな脅威となるコロナ災禍においても人々の生活を支え続けるために、国土の強靱化や防疫を一層推進しなければなりません。

 また、今後急速に老朽化が進むインフラのメンテナンスも重要です。これまで先輩技術者が培ってきた大切なインフラを後世に引き継ぐために、産官学が一体となってメンテナンス技術を確立し、伝承していく取組が必要になってきます。本大会では、多くのインフラを抱える地方自治体の土木技術者不足や技術の伝承が課題となっている現状を踏まえ、課題解決に向けた方策について、幅広い分野の方々により議論していただく特別セッション・特別討論会の開催を試みます。

 中部地方は、我が国随一のものづくり産業の集積地であり、特別対談にお招きしました日本ガイシ株式会社を始めとして、高度な技術力を背景に付加価値の高い製品を提供し、日本のみならずグローバルに活躍する企業が多く、ものづくりの中枢圏域として世界をリードしています。土木界においても、この中部の産業界のように、他分野との連携を積極的に進め、付加価値を高め、国内のみならずグローバルに展開していく必要があります。そのためには、我が国の優れた技術・制度に造詣が深い国内外の次世代の土木技術者の育成や、若手、女性、シニア、外国人など多様な人材が活躍できる社会の実現に向けて、土木技術者が広く活躍できる場の創出に取り組み続ける必要があります。

 今後、この地方はリニア中央新幹線の開業により、東京、大阪と一体となった、世界でも類をみないスーパー・メガリージョンとして、国際的な拠点となることが想定されます。また、一層激甚化する自然災害や想定外の国難への備えも加速しなければなりません。災害のみならず、少子高齢化、人口減少、労働生産性の相対的低下、デジタル化の遅れによる国際競争力の低下、そしてwithコロナの時代など、取り組まなくてはならない社会的課題は数多くあります。我々は土木を通じてこれらの社会的課題へのソリューションを提案していく必要があり、そのためには「ものづくりの土木」から「コトづくりの土木」へと変革していく必要があると考えます。

 本大会に集った全国の産官学の叡智が、攻守一体となった変革を実現し、様々な困難を乗り越え、世界の持続可能な成長を支える原動力となることを願って、挨拶とさせていただきます。