講演題目:
一昨年、土木学会は創立100周年を迎えました。長期目標として、社会と土木の100年ビジョン「あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く」が宣言され、100年後も我々を取り巻く環境は種々変化したとしても、「人々の暮らしの安全を守り豊かにする」という土木技術者の役割は変わらないと謳われています。東日本大震災からの復興・創生、また、本年4月に発生した熊本地震など、まさに多発する災害に対応した強靭な国土の建設、老朽化しつつある社会資本の維持管理・更新、エネルギーの安定供給、地球温暖化への対応、我が国の先端土木技術による国際貢献など、様々な役割が土木界・土木技術者に期待されています。
一方、社会状況は高齢化社会の到来により、生産年齢人口の減少は顕著化・長期化しており、特に我々土木界では技術者や技能者の確保は喫緊の課題であります。建設現場の就労環境は、3K(きつい、危険、きたない)に加え、給料が安い、休暇が少ないなど5Kとも言われています。他産業より低いとされる労働生産性を向上させて、現場の安全はもとより、休日、安定収入の確保を図り、土木を若者や女性に選ばれる職業に変えていかなければ、早晩、土木界が社会から求められる役割を果たすことが難しくなると懸念されます。
今までも土木学会は「自然災害に強いしなやかな国土の創出のために」「これからの社会を担う土木技術者に向けて」「誰がこれを造ったのか−社会への責任、そして次世代へのメッセージ−」など時代の変化を先取りした様々な活動・提言を行ってきました。今まさに、土木の原点である生産現場に目を向け、生産性、安全性、信頼性の向上を図り、女性等の参画も含めた担い手確保を目指す活動が求められています。
本年4月、会長特別タスクフォース「現場イノベーションプロジェクト〜次世代に繋ぐ生産現場のあり方〜」を立ち上げました。国土交通省も建設現場の生産性を抜本的に向上させる「i-Construction」を展開しています。また、日本建設業連合会も生産性向上推進本部を立ち上げ、対応を始めています。土木学会は、これらの活動と連携し、学会の特徴である学術的な面(基準・設計、教育等)から、こうした土木界の取り組みをさらに加速させていきます。
土木学会では数々の素晴らしい委員会が日々活動していますが、本タスクフォースでは、テーマに関連の深い10の委員会の参画の下、委員会を横断する3つのワーキンググループを構成し、活動しています。それぞれ、“コンクリート構造物の生産性・安全性向上技術(プレキャスト化等)の導入促進”、“ICT・ロボット等、次世代建設技術の実用化・普及を支える研究・教育の拡充”、“女性や若手、シニアを含めた担い手の確保、土木界の裾野拡大”について検討し、具体的なアクションにつなげていくことを目指しています。
私は、ダム工事を主とした約30年の現場勤務の中で、コンクリートダムの合理化施工や高速施工に取り組むとともに、3次元CADシステムの現場への適用などに携わりました。また、現場を離れ、管理部門に移ってからも、現場の様々な取組みを後押ししてきました。土木学会会長としても、次の100年の土木、そして、その原点である生産現場に目を向け、異分野を含めた新たな技術や合理的な発想も積極的に取り入れながら、若者や女性、高齢者など、皆が安全で、生き生きと働くことができる、新しい生産現場のあり方を皆様と一緒に検討して、その第一歩を歩み出したいと考えています。このようなモノづくりの現場に密着した学会活動を推進すること、また生産現場により近い人たちにも学会活動の裾野を広げることは、社会と土木の100年ビジョンを宣言した土木学会の使命であると思っています。
2016年06月11日公開