境橋は、主要地方道常陸太田那須烏山線の那珂川に架けられた橋長112.5m・幅員6.1mの上路式RCオープンスパンドレルアーチ橋です。現橋は、昭和12年に竣工した3代目の橋です。最初の橋は明治30年に舟を横に並べて鎖でつなぎ板を敷いただけの舟橋、2代目は大正9年にトラス形式の洋式木橋が架けられましたが、多発する洪水への対応から永久橋への架け替えが行われました。設計者は、関東大震災後の帝都復興局橋梁課長として隅田川橋梁群の設計や美橋として知られる聖橋など、百数十橋を手がけた橋梁設計の第一人者・成瀬勝武です。『戦前土木名著100書』に数えられる成瀬勝武の著書「彈性橋梁(昭和15年)」では、境橋の設計計算書が31ページにわたって紹介されるなど、境橋は当時のRCアーチ橋の模範となる代表的橋梁であったことが窺えます。橋脚上には半円バルコニーが左右対称に設けられるなど意匠性にも富んでいます。近代に建造されたバルコニー付きRCアーチ橋は全国でも数例しかない貴重なものであり、また、那珂川屈指の景勝地に融合した優美な景観を呈しています。
境橋は、当代における橋梁設計の第一人者によるモダンな発想と最新の技術とによって建造された時代を代表する橋であり、今も近代の精華を水面に映しています。
|