東京都/中央区
さとがわすいけい すいりょくはつでんしょぐん
里川水系水力発電所群
H29年度認定(2017)
1.名 称:
さとがわすいけい すいりょくはつでんしょぐん
里川水系水力発電所群
2.完成年:
明治41年(1908年)〜大正15年(1926年)
3.諸元・形式等:
水路式発電所 5基、14施設(現在稼働中)、旧変電所 1基
(使用水量全体で約10m3/s,最大出力3,770KW、H28年11月現在)
①中里発電所 完成年 明治41年
a取水所
堤長37.7m、提高3.3mの重力式コンクリート造堰堤
右岸側に制水門と排砂門を配置
茨城県最初の発電用取水堰堤
b放水路
延長11m、幅3.6m、高さ4.2mの開水路
側壁は法勾配3分の谷石積み、底部はコンクリート張
里川河川護岸と一体的に築く
茨城県最初の発電用放水路
②里川発電所 完成年 大正12年
a取水所
提長38.6m、提高2.6mの重力式コンクリート造堰堤
表面には石張りが施され、右岸側に制水門、排砂門を設置
b発電所建屋
鉄筋コンクリート造平屋建て158.7㎡、切妻造、瓦棒鉄板葺屋根、軒下に蛇腹状の装飾
妻板上部に「茨城電気(株)」の発足に尽力した前島平をはじめとする太田町出身の7人を象徴する「太田の7人組」の紋章を設置
c放水路
延長32m、幅4.5m、高さ2.9mの開水路
側壁は法勾配3分の谷石積み、底部はコンクリート張
③賀美発電所 完成年 大正8年
a取水所
提長33.5m、提高2.9mの重力式コンクリート造堰堤
提頂部は布石張り 右岸側に丁寧な石材仕上げがされた制水門と排砂門を設置
制水門と一体的に造られた沈砂池を配置
b発電所建屋
木造平屋建189.3㎡、切妻造、瓦棒鉄板葺屋根、外装は下見板張り 越屋根を設け、壁面に広い開口部を取り、換気に配慮したつくり
c放水路
延長64m、幅6.4m、高さ3.6mの開水路
側壁は法勾配3分の谷石積みで精緻に築かれている
底部はコンクリート張り
側壁に布石張りを施したアーチのコンクリート造の管理橋を設置
④小里川発電所 完成年 大正15年
a取水所
提長17.8m、提高2.4mの重力式コンクリート造堰堤
右岸側に魚道、左岸側に制水門と排砂門を配置
小規模ながら近代的要素を全体的に備えた河川構造物
b発電所建屋
鉄筋コンクリート造平屋建185.7㎡、切妻造、
瓦棒鉄板葺屋根 小屋組は鉄骨フィンクトラス
正面中央部に玄関ポーチ、軒下に蛇腹状の装飾を設け外観に変化をつけている
c放水路
延長142m、幅5.2m、高さ4.3mの開水路
側壁は法勾配3分の谷石積み 底部はコンクリート張
⑤徳田発電所 完成年 大正15年
a取水所
提長11.2m、提高2.5mの重力式コンクリート造堰堤
左岸側に制水門と排砂門を配置
b発電所建屋
木造平屋建81.0㎡、切妻造、瓦棒鉄板葺屋根
外装は下見板張りの小規模な建築物
c放水路
延長34m、幅4.8m、高さ3.5mの開水路
側壁は法勾配3分の谷石積みとし里川に面して石積
護岸を一体的に築く
優れた石積み技術を確認できる
⑥旧町屋変電所 完成年 明治42年
煉瓦造平屋建191㎡、瓦棒鉄板葺木造トラス屋根組
町屋発電所(明治42年竣工、昭和31年廃止)の変電施設として建設され、背の高い煉瓦造・切妻屋根の建物に寄棟屋根の建物がつながる外観に特徴がある
碍子はフランス製と見られる
茨城県初期の発電関係施設の遺構として貴重である
現在は地区の集会所として使用されており、地区の保存会により管理されている
4.設計・工事監督:
中里発電所:山川 善太郎、広田 精一、小平 浪平
他の発電所、変電所は不明
5.開設者(施工者):
中里発電所:日立鉱山(株)、里川、賀美発電所:茨城電力(株)
小里川、徳田発電所:東部電力(株)町屋変電所:日立鉱山(株)
6.推薦理由:
一級河川里川水系は、電力需要地(水戸市や太田町、日立鉱山)に近く、山地河川であることから、茨城県で最初に電源開発された水系であり、明治、大正期を通して6基の発電所及び1基の変電所が建設され、現在も5基の発電所が稼動を続けている。中でも最下流側に位置する①中里発電所が県内最古の発電所である。
中里発電所の開設は、地元太田町の前島平をはじめとする実業家グループ7名(当時「太田の7人衆」と呼ばれていた)が、「茨城電気(株)」を設立し、明治38年に建設事業に着手したことに始まり、工事中に、当時、鉱山の近代化を急いでいた日立鉱山(株)の要請により、当鉱山に事業譲渡され、明治41年工事が竣工した。しかし、その4年後には茨城電気(株)が当発電所を買い戻し、地元太田町等に電気の供給を開始している。その後、茨城電気(株)は、増資や合併を行いながら組織を充実させ、茨城電力(株)、東部電力(株)へと変遷しつつ、里川水系の他の発電所の建設を進め、電力供給区域の拡大を図っている。そのため、前島平は、茨城の電気王と言われている。
地域の人たちの近代化への熱き思いと努力によって成し遂げられた土木事業である。
開発された電力は、日立鉱山の採掘や精錬の電化や水戸市、常陸太田市(当時は太田町、河内村等)の電灯の普及、水戸市街地や周辺の町を連絡する路面電車(水浜電車)の開設・運行に寄与するなど茨城県における産業の近代化や近代的まちづくりのけん引役を果たして来た。
また、当時は、「電気見たけりゃ町屋へ行け」とまで言われ、電源開発地として逸早く電灯が灯ったことを町屋地区の人々は地域の誇りとしていたと伝えられている。現在も、この地区では「河内の文化遺産を守る会」を組織し、旧町屋変電所等の保護活動と歴史的文化財を活用した地域おこしイベント(例年秋には「赤レンガと銀杏まつり」を開催)などを開催している。
これら施設は、現在もほぼ当時の姿で稼動しており、土木事業が地域社会の近代化に大きな貢献を果たしてきた歴史的証しとして、貴重な土木遺産である。
①中里発電所、②里川発電所、⑥旧町屋変電所は日本の近代化土木遺産2800選 Cランク
③賀美、④小里川、⑤徳田発電所(発電所建屋、取水施設、放流施設、徐水路)、⑥旧町屋変電所建屋は国登録有形文化財
7.所在地:
①中里発電所:茨城県日立市東河内町 ②里川発電所: 同 下深萩町
③賀美発電所:常陸太田市上深萩町
④小里川発電所: 同 里川町
⑤徳田発電所: 同 徳田町
⑥旧町屋変電所:茨城県常陸太田市西河内下町
8.管理者:
発電所①②③④⑤:東京発電(株)
旧町屋変電所⑥:常陸太田市
9.管理者連絡先:
東京発電株式会社 茨城事業所事務課
常陸太田市教育委員会文化課
10.選定された場合に実施を予定しているアピール方法:
・土木の日の一環として実施している見学会や講演会に土木遺産の紹介を組み込むと共に、県や建設関係団体が共同して例年実施しているPRイベント「茨城県建設フッェスタ」、例年開催されている河内の文化遺産を守る会主催の「赤レンガと銀杏まつり」において披露する。
・茨城県土木部、常陸太田市、日立市、東京発電(株)、土木学会茨城会、河内の文化遺産を守る会のホームページや広報誌等によりPRする。
11.公募に関する連絡担当:
国際航業(株)水戸営業所 澤畠 守夫
Tel:029(221)7251,fax:092(227)5960
Eメール:morio_sawahata@kk-grp.jp
各施設の位置及び諸元
発電所名
使用開始
認可出力
発電形式
落差
使用水量
建屋
水車形式
摘要
中里①
明治41年12月31日
700kw
水格式
30.06m
3.06(㎥/s)
木造
横軸フランシス
県内最古の
発電所
賀美②
大正8年2月7日
510kw
水格式
33.33m
2.09(㎥/s)
木造
横軸フランシス
無人
里川③
大正12年6月9日
700kw
水格式
35.39m
2.50(㎥/s)
鉄筋コンクリート
横軸フランシス
無人
小里川④
大正15年2月27日
1000kw
水格式
102.31m
1.391(㎥/s)
鉄筋コンクリート
横軸フランシス
無人
徳田⑤
大正15年10月1日
650kw
水格式
106.15m
0.78(㎥/s)
木造
横軸フランシス
無人
※賀美、小里川、徳田発電所は平成16年11月8日有形文化財に登録された。
旧町屋変電所の諸元等
明治42年竣工(昭和31年変電所としての機能停止)
煉瓦造平屋造り鉄板葺屋根1棟
現在は地域の集会所(駐車場も整備され、地域づくりイベントの中心会場となっている)
中里発電所 a平成22年まで使われていた発電所本館および現在も使われている里川への放水路及び河川護岸
中里発電所 b現在の発電所本館
河川護岸は竣工時のもの
中里発電所 c放水路出口
中里発電所 d取引所 下流側から
中里発電所 e取引所 上流側から
里川発電所 a発電所本館
里川発電所 b妻板に取り付けられた「茨城電気(株)」の紋章
里川発電所 c放水路
里川発電所 d放水路の里川出口付近
里川発電所 e取水所
賀美発電所 a発電所本館
賀美発電所 b本館及び放水路
賀美発電所 c放水路下流部及び管理用通路のアーチ橋
賀美発電所 d取水所
小里川発電所 a発電所全景
小里川発電所 b発電所本館
小里川発電所 c放水路及び管理用通路アーチ橋
小里川発電所 d取水所
徳田発電所 a発電所全景
徳田発電所 b発電所本館
徳田発電所 c放水路
徳田発電所 d取水所 下流側から
徳田発電所 e取水所堰堤
旧町屋変電所a建屋全景(南東側から)
旧町屋変電所b建屋全景(西側から)
旧町屋変電所c送電線引き込み口(硝子が見える)
旧町屋変電所d屋根組トラス、送電線引き込み口
旧町屋変電所e地区の保存会「河内の文化遺産を守る会」主催の「赤レンガと銀杏まつり」
旧町屋変電所f NHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」で奥茨城村役場として放映
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