東京都千代田区にある日本水準原点は、明治24年に陸地測量部により日本の高さ(標高)の基準となる点として創設され、その原点を保護するために同時期に日本水準原点標庫が建築された。
日本水準原点の構造は、標高の基準となる点であることを考慮し、地震時の地殻変動を最小限に抑えるため、基礎を固い岩盤からとし、基礎の周囲に細砂を充填して築かれている。また、温度変化に伴う伸縮の影響を抑えるため、基礎部分にはコンクリート、煉瓦、硬石を用い、上部には花崗岩台石を用いて、零位尺には甲州産の水晶板を用いている。
日本水準原点の数値は、平成30年度に選奨土木遺産に認定された「油壺(旧)験潮場」(現在では新験潮場)と定期的に水準測量を実施し点検されており、日本水準原点の変動を監視している。
日本水準原点標庫は、ドーリス式ローマ神殿形式の古典的建築で、日本人建築家により設計されたものでは、日本最古の近代洋風建築のひとつとして、歴史的、建築学的にも学術的価値を持っており、平成8年3月には、東京都の指定有形文化財に指定され、現在に至っている。
日本水準原点標庫の設計者は、佐立七次郎氏。工部大学校造家学科(後の東京大学建築学科)第一期生の4人の内の1人である。この同期4人は、日本における洋風建築の黎明期に優れた作品を手がけており、日本水準原点標庫は佐立氏が設計した建築物で現存する最も古いものでもある。
これらのことから日本水準原点及び日本水準原点標庫は、我が国の「標高の基準」として重要な施設であり、測量の教科書には必ず記載されている。また、近隣の国会議事堂見学の際の見学コースに入っているなど、測量関係者だけでなく国民にも広く親しまれているため、土木遺産に認定し、後世までその功績や役割を伝えたい。