会長からのメッセージ


尊敬され評価される土木を目指そう


田中 茂義 TANAKA Shigeyoshi 第111代土木学会会長

会長特別プロジェクトに携わる中で、改めて「土木のすごさ」を痛感したことがある。すごさとは技術のすごさであり、また目的物を完成させようとする志のすごさである。その一つは2023年8月に視察した黒部ダムと黒部川第四発電所である。日本屈指のアーチ式ダム、地下200mの大空間に作られた地下発電所、傾斜角47度の水圧管路トンネルや傾斜角34度の資機材搬入用のインクラインなどは、現代の土木技術者から見ても高度な技術力が要求される、壮大かつ難度の高いプロジェクトである。これをわずか7年で完成させた当時の技術力と技術者たちの「黒四(くろよん)スピリッツ」には驚くばかりである。人々の生活の基盤づくりを担い、ウェルビーイングに貢献する土木の真骨頂を見る思いであった。
「土木の魅力向上」をテーマに1年間活動を続けてきたが、土木学会会員がSNSなどで積極的に土木を発信する姿を見て大変喜んでいる。土木の真の姿を社会に知ってもらうことで土木および土木技術者が尊敬され、土木の認知度やステイタスが向上することを期待している。土木や土木技術者のステイタス向上については、これまでの土木学会の歴史の中で議論のテーマになったと聞く。残念ながらその当時も今も、土木に対する社会の認識は大きく変化していないようだが、これを変え評価を得るためには、われわれ自らがステイタスを感じられるような評価軸を設け、制度化することも必要かもしれない。今度こそ「土木の魅力向上」を継続的な活動として取り組み、土木界の地位向上を図るとともに、土木技術者が誇りと希望を持って活躍できる社会の実現を目指したい。
土木に限らず社会から認知されるために必要な要素としては、創造性、希少性、国際性が重要ではないかと思う。その活動内容やパフォーマンスが創造的であること、希少価値があり並外れた優越性があること、国際的に貢献し海外から評価されることなどである。土木の世界はこの三つの要素が少し希薄ではないかと危惧する。土木の内側の世界においてはそれぞれのパフォーマンスを上げていても、外の世界に向けてのアピールが足らないのではと感じる。

写真 1(右)コンクリート打設中に湛水(たんすい)・発電を開始した黒部ダム(写真提供:関西電力(株))
写真 2(左)黒部川第四発電所本体掘削(写真提供:大成建設(株))

土木のステイタスアップ小委員会で、ステイタスはその属性の人々の平均値からではなく卓越した存在から生まれるとの議論があったが、私も同感である。土木に大谷翔平は居るかとの意見もあったという。土木においてももう少し個人に焦点を当て、個人を評価すること、そして突出した土木技術者を育成する努力が必要かもしれない。
土木学会はしばしば敷居が高い組織であるといわれている。地方で土木に携わる技術者や中小の建設業者とは無縁の存在だと思われがちである。研究や技術開発だけを重視するのではなく、土木の持つ技能的側面や実務的マネジメントについても包含すべきであろう。土木学会は、土木に携わる全ての人々を受け入れる懐の深さを持たなければならない。
最近のうれしい話題は、建設に携わる人々の活動、例えば災害時の活動なども含めて、市民の関心と理解を深めることが必要であり、広報や啓発を推進すべしという国の動きがあることである。土木学会会長としての一年はあっという間に過ぎたが、会長プロジェクトの面々をはじめとして私の活動にご協力とご支援をいただいた全ての人々に、改めて感謝申し上げたい。土木の魅力が向上すること、そして社会から尊敬され評価を受けることを、心から願っている。



会長プロジェクトでは動画配信中。会長が土木の魅力を語っています(QRコード参照)。
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会