会長新年挨拶


種をき、水をやり、花が咲くのを待ちましょう


佐々木 葉 SASAKI Yoh 第112代 土木学会 会長


土木学会会員の皆さん、新しい年の始まり、うれしいですね。会長として新年のメッセージをお届けできることに感謝しています。
2025年1月1日は、私が会長になって202日目、生まれてから2万3190日目とか。そして昭和元年から数えると100年目となり、令和6年能登半島地震からちょうど1年です。日時の記憶や数字に疎い私ですが、ちょっと検索すると日数計算や暦の確認ができます。淡々と流れていく時間ですが、視点や起点をずらしてみると、今に至るまでの時間が違って見えます。すると未来を眼差(まなざ)す視線も変わってくるように思います。「一年の計は元旦にあり」と言うように、皆さんも今年の目標などを立てられたかと思います。もちろんそれを大切にしつつ、少し別な観点から未来を思い描いてみるのはいかがでしょう。
さて唐突ですが、土木の仕事とは、さまざまな条件を克服して人々に時間を提供すること、とも言えるのではないでしょうか。渡れない川や谷に橋をかける。水が得られない場所に水を引く。その結果、あることのために必要とされた労力や時間を劇的に減らして、その時間を別のことに使えるようにする。それによって人々はより豊かな暮らしをすることができる。道路整備の効果の一つは今も、ある距離の移動時間の短縮として語られます。土木に限らないかもしれませんが、技術とは時間をコントロールするものなのですね。
しかし人間がコントロールできない時間があります。地球の自転と公転、そこから生まれる昼夜と季節の巡りです。その中で生きる生命の時間です。ヒトの子どもが生まれてくるまでの妊娠期間は平均38週間、十月十日(とつきとうか)です。桃栗三年柿八年です。あるいは地球には地殻変動という数千年、数万年単位で続く出来事があり、一瞬で地形に変化を生じさせることがあります。気象は常に穏やかに、時に劇的に変化します。品種改良や栽培方法の工夫による成長速度の操作や、気候変動への人為の影響があるとは言え、宇宙の、地球の、命の時間の流れはコントロールできません。
こんなことを考えた上でインフラが創り出すさまざまな時間に思いをはせると、土木の仕事とは、人々の暮らしや地球を幸せにする種を蒔くことであり、水をやって世話をすることであり、そして自(おの)ずと花が咲くのを楽しみに待つことであるようにも思えます。もちろんその仕事に携わる私たち自身の時間も豊かでなければいけません。土木学会という場での、例えばこんなおおらかなおしゃべりが少しでもそのために役立つといいな、と思っています。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会