会長からのメッセージ


アイデンティティーが生まれるところ


佐々木 葉 SASAKI Yoh 第112代土木学会 会長

2024年11月19日に土木学会創立110周年記念式典を無事に開催することができました。多くの会員、事務局、関係した皆さんのご尽力のおかげです。どうもありがとうございました。式典の場で私からあいさつをする機会をいただき、その中で、このように述べました。
「土木に関わる、土木を愛する人たちの交流と対話の場を可能にするインフラとしての土木学会。その110歳のお誕生日をみんなで喜びながら、これからも元気に歳を重ねていけるように土木のアイデンティティーを思い描く機会、そのような場として今日の110周年記念のイベントがあると考えております」
110周年記念事業のテーマ「土木の核とひろがり」は、土木とは? を考えようとする時に、一つの方向性を与えてくれたと思います。変わるものと変わらないもの。基礎と応用や展開。ネットワークのハブとつながり。このような図式のもとで土木を考え、何がそれぞれにあたるかに思いをはせることができます。あなたの土木の核とひろがりはなんですか?
さて、アイデンティティーという言葉は、なかなか日本語にしづらいですが、それらしさ、私はこういう存在ですという認識、と言えましょう。そしてアイデンティティーに意識が向くのは、それをわざわざ確かめたい、それに不安を感じた時だと思います。「ここはどこ? 私は誰?」というフレーズは、都市が個性を失い、そこに生きる自分自身に不安を感じる状態を象徴しています。ではそのような時、どのようにして自らのアイデンティティーを確かめるのでしょうか?

写真1 私が今、ここにいることを実感させてくれる眺め(東京御茶ノ水)(撮影:大村拓也)

属性は一つの手がかりとなります。ジェンダー、世代、所属組織、家族としての立場などです。でもこれらは社会的に与えられた枠にすぎないので、これに縛られず、のびのびとした振る舞いができる世の中に変えていこう、という声が大きくなっていますね。
一方、自由にアイデンティティーを語っていいと言われると、これはこれでまた不安にもなります。110周年の記念式典や交流会では、カジュアルな服装でどうぞ、としたのですが、かえって戸惑われた方もいらしたようです。結果的に登壇者の皆さんは思い思いの服装でご参加いただき、その一つとしてスーツにネクタイもありました。服装はアイデンティティーに意識を向ける身近なきっかけになるように思います。
最後にもう一つ、属性にかかわらず、私として今ここで生きている、という実感を与えてくれるのが風景だと思います。ある眺めに向き合うこととは、あれが見えるここに、今、私が存在していることを確かめることでもあります。そしてその眺めが、小さな変化を含みながらもいつもそこにあることで、私も時間と空間の中で安定して存在していることを実感できます。風景はそのような力を持っています。地形とともに大地に刻まれる土木の仕事が、私のアイデンティティーを確かめる眺めを生み出すことができるよう、インフラのデザインをしていけるといいな、と思います。

© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会