会長からのメッセージ


あなたにとって、土木学会とは?


佐々木 葉 SASAKI Yoh 第112代土木学会 会長

第112代会長からお届けするメッセージはこれが最後です。メッセージとは誰かに向けて発するもの。学会誌でのメッセージは、会員の皆さんにお届けするものです。その一方で、約3万9000人もいる土木学会の会員の皆さんとはどのような人なのか、思いあぐねてきました。土木学会の会員は、論文投稿、研究発表会やさまざまな委員会に参加します。最も規模が大きいのは全国大会で、2023年度の延べ参加人数は約2万5000人、講演数は約4200件でした(1)。この数字を見ても、1万人規模の会員は直接なんらかの活動に参加する機会を持たず、土木学会誌が唯一のつながりかと想像します。では学会誌の読者とはどのような人たちなのでしょう。
土木学会誌2023年6月号の特集は「これからの時代の土木学会誌のありかたを考えよう」でした。そこでは興味深いアンケートが行われ、学会誌の誌面の他にウェブサイトにも結果が公開されています(2)。友人がこの特集を担当し、回答を集めるのに大変苦労していたことを記憶しています。結果的に得られたのは約3000件でその3分の1は会員でない方からでした。そして回答した会員の4分の1は、学会誌をほとんどあるいは全く読まないと答えています。
一方、会長という立場になってからお引き受けする講演や寄稿も増えました。そこでお会いするのは土木分野、建設分野に関わりながらも土木学会会員ではない方々がほとんどです。建設業就業者は約480万人(3)です。その方たちの目に土木学会は、土木分野をけん引していく人たちの集まりと映っていると感じます。こうした数字や経験を通して、土木学会の会長とは誰にとっての会長なのだろう、私の言葉は誰に届ける言葉なのだろう、と考え続けてきました。

図1 土木学会のさまざまな場面(土木学会初代会長古市公威肖像写真(中央左)は土木学会附属土木図書館所蔵)

そして今年の2月には「下水道に起因する道路陥没事故をうけての土木学会会長から会員の皆さんへのメッセージ(4)」を発信しました。そこでは会員の皆さんに「自分ごと」として考えていただきたいと述べています。課題を具体的に検討する会議体に関わる人は会員のごく一部となります。しかしこうした活動があることをきっかけとして、この課題を「自分ごと」と考える会員が一人でも増えることこそが、大切だと考えています。
土木学会とは会員一人一人のやりたいことを可能にするインフラです。同時に土木学会は、会員の向こう側にいる会員以外の建設業に関わる人たち、さらには建設業がつくるインフラを使う皆さん、その人たちのこうなったらいいな、を可能にするインフラでもあります。そうした幅広いインフラユーザーの皆さん一人一人の中にあるあいまいな意識や意欲をその人自身が言葉にし、一歩前に進んでみようかなと思い描くこと、それ自体を私自身が思い描きながらメッセージを書いてきたんだな、と改めて思います。
一年間どうもありがとうございました。



参考文献
(1)企画委員会:土木学会見える化データ2023、2025年
(2)土木学会誌編集委員会:土木学会誌に関するアンケート結果、2023年
(3)労働力調査による2025年2月の主な産業別就業者数(原数値)のうち建設業の値https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tclass=000001226526&cycle=0
(4)佐々木葉:下水道に起因する道路陥没事故をうけての土木学会会長から会員の皆さんへのメッセージ、2025年
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会