会長からのメッセージ
技術研究開発と現場実装
─現場から制度・基準を問い直す─
私は行政、大学、民間と立場を変えながら約40年にわたり、主に防災・減災に関する業務に携わり、数多くの技術研究開発とその現場実装にも関わってきました。本稿では、技術研究開発の成果を現場に実装していく過程で成否を分けた要因のうち、特に制度や基準の見直し、関係者の理解と納得が果たした役割に焦点を当てます。具体例として、航空レーザ測量(レーザプロファイラ:以下、LP)及びi-Constructionを取り上げます。
新技術の普及を阻む主要な要因は、既存の制度や基準、運用との不整合、さらには利用者や関係者の理解と納得の不足にあると考えています。優れた技術であっても、基準や運用に適合しない、費用対効果が説明できない、関係者が安心して利用できないといった課題があれば、現場には定着しません。
LPは、広域かつ高精度な三次元地形データを取得でき、浸水想定の精度向上や中小河川の流下能力把握に効果をもたらします(図1)。LPの導入検討を開始した2004年当時には、コスト、作業規程、データ管理など制度面・運用面に少なからぬ制約が存在していました。
当時の作業規程では、LPデータをメッシュデータに変換して利用することが前提でしたが、これでは幅の狭い中小河川の堤防など重要な地形情報が十分に把握できない場合がありました。
そこで関係者と議論を重ねて、点群データを直接活用する方針を示し、業務目的に必要な精度と効率を両立する指針へとつなげました。この過程で重視したのは、従来手法の精度を形式的に踏襲するのではなく、業務目的に立ち返り、必要な性能から要求水準を再定義することでした。
2016年にi-Constructionの立ち上げを担当した際にも同様の構図が見られました。ICTや三次元データの活用は生産性や安全性の向上に直結し得ますが、技術導入だけでは現場は変わりません。大手及び地方の建設会社や建設機械メーカーなどへの徹底した聞き取りを行い、現場の実情を踏まえて方針を定めました。併せて、施策の実施に必要となる15件の基準類を数か月で改定・整備しました。
その結果、従来当然とされてきた基準などの中に、生産性向上を妨げる要因があることが明らかとなりました。施工会社の現場担当者の意見も踏まえ、UAV写真測量におけるオーバーラップ率の見直しなど、基準の見直しによって必要な品質を確保しつつ生産性を大幅に向上させることが可能となりました。
以上に述べたように、新技術の現場実装には、技術研究開発だけでなく、制度・基準・運用などの見直しと、関係者の理解・納得の醸成が不可欠です。土木技術者は技術を磨くだけにとどまらず、現場で得られる知見を起点として、目的に照らした必要性能の観点から制度や基準の妥当性を点検し、過不足があれば積極的にその見直しを提案していくことが重要です。こうした取組を着実に積み重ねることが、新技術の合理的で実効性のある現場実装を推進し、社会の安全・安心の向上と、生産性及び品質の向上につながるものと考えます。本稿が、新技術の現場実装に向けた取組の一助となれば幸いです。


